「……ありがとう」 小さな言葉は胸に留める。 「……寝るか、疲れただろ」 笑顔のネオから視線を反らしつつ、言ったエースにネオもうなずいた。あっという間に寝静まる二人。ネオはエースに心のなかでもう一度、ありがとうと呟いた。 眠りに落ちたネオは夢を見た。あの日の夢を。第三者としてあの日を見ている自分。最後に差し掛かり、あの女は手を伸ばして、司を殺そうとする。身体が震える。血が、跳ねた。目の前が真っ赤に染まり、"ネオ"は"司"へとなっていた。あの女が言う。 ――呪ってやる、と。 逃げたい。でも、逃げちゃいけない。支えてくれる人が、いるのだから。笑う。偽りなく、笑う。 呪えばいい 私はもう、逃げない 光が指す。あの、女が消えた。 目を開けると、目の前にはエースがいた。心配そうに覗いている。多分、この前みたいに魘されているのではないかと心配してくれたのだろう。だが、ネオは笑った。大丈夫だと。 宿を出て、船出の準備をする。ちゃんと今後の食料を持って。二人で船出の準備をしていれば、エースはふと呟いた。 「ネオ。お前、白髭に入らないか?」 白髭。つまり海賊になるということだ。ネオが海賊になることを拒否したのには理由がある。それは、孤独を失い、そして、仲間を助けるためには刀を抜き、人を殺めることがあるかもしれないということだ。それがネオには出来なかった。今、考えればエースを救うことでさえ、たくさんの命を、可能性を奪うことだったのだ。本当に自分は甘かった。 覚悟を決める。 ネオは小さく深呼吸をした。 「いいのか?」 「当たり前だろ。ネオを守るには近くにいてもらわないと困る」 守るには……か。エース。あんたはやっぱり、めっちゃくちゃ良いやつだよ。でも、それは俺のセリフ。俺だってあんたを守りたいんだ。白髭を。白髭海賊団を。 「あははは」 「なっ、何で笑うんだよッ!」 「だって、守るって、柄じゃねえってか」 相変わらずけらけら笑うネオに眉を潜めるエース。だが、ネオは笑う。綺麗に。 「うん。よろしく、エース隊長」 「おめェの隊長の方が柄じゃねえだろ。よろしくな、ネオ」 差し出された手を強く、強く握り締め、笑い合う二人。 今までの時は一体何だったのだろう。 今までの苦しみは一体何だったのだろう。 今までの虚無は一体何だったのだろう。 俺はこんなにも笑える。 それを教えてくれたのは――貴方。 |