二人はその後、宿屋へと戻っていた。それぞれ椅子とベッドに座る。
エースがルオンと知り合いなのかとネオは首を横に振るだけだった。また母親のことについてもネオは首を横に振った。
「あり得ないよ、だって俺がここへこれたのはあっちの世界で死んだからだし、母さんは戦うことは出来たけど、小さい頃は監禁状態だったって言ってたし」
「監禁?」
あまりの通常の人間離れしたネオの言葉に、エースは聞き返してしまう。そんなエースに、ネオは苦笑を浮かべた。
「母さんの家は特殊でさ、家に出ることもままならなかったらしいんだ。父さんとは駆け落ちしたって聞いた」
目を見開くエースにネオはしれっとした調子で答える。そして笑った。
「俺は母さんの方のじいちゃんやばあちゃんには嫌われている存在だから、でも父さんと母さんのことは大好きだし」
エースは神妙な顔つきをしたが、相変わらずネオは笑っていた。
「でも、大好きな人たちは居なくなってしまった……」
そう言ってうつ向いたネオにエースは眉を潜める。だが、何かを振り切るかのようにエースの方を向いて飛びっきりの笑顔を向けた。
その笑顔に嘘偽りはない。
「今はエースがいるし、だから大丈夫」
そう言ったネオにエースは傷ついたような、ばつの悪そうな表情を浮かべ、机を見つめる。ネオ、と続けようとした言葉はネオがベッドに倒れる音と共にかき消された。
「さて、寝るか!」
「あ、ああ」
そのあと寝息が聞こえ始めたネオを見つめ、自分のベッドへと倒れる。エースは天井を見つめ、目を静かに瞑った。
握りしめられていた拳は震えていた。
次の日の朝、いつもはネオがエースを叩き起こす形で始まる朝とは異なり、エースがすでに旅の準備が終わっている形で朝を向かえた。
エースはネオが起きると笑う。そんな様子のエースにネオは明らかに動揺の表情を浮かべた。
「え、あ、エースなんで、あ、あ、明日は雹か?! 雹なのかああああ?!」
「失礼だな、おい」
ネオの叫び声にエースが突っ込めば、急いで立ち上がり、旅の準備を始めようとした。だが、その手はエースに掴まれる形で阻まれた。
ネオが不思議そうにエースを見れば、エースは真剣な顔つきで、ネオの手をこれでもかと言うくらい強い力で掴んでいた。
だが、その手は微かに震えている。
怒りからなのか、悲しみからなのかネオにはわからなかった。
エースは静かに口を開く。
「ネオ、お前はここに残れ」
エースの言葉は静かに、だが、確かに呟かれた。
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