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 あの後のことは、あんまり覚えていない。警察に事情聴取されたり、裁判したりと、父さんは悲しみにくれていられないぐらい、忙しそうだった。
 俺はと言うと、あの出来事がショックで、精神的にもおかしくなったらしく、何を話しかけてもほとんど無言だったらしい。
 夜な夜な魘され、兄貴もかなり心配していたらしい。
 ただ、こんな俺でも分かったことはただ一つ。あの女は無罪になったということだけだ。
 理由は単純。その女は精神的に病んでいて不安定。母さんを襲ったのは自己防衛という弁護側の主張が認められ、そして何より証拠が不十分だったからだ。
 兄貴がキレていたのも知ってる。そして、父さんの肩が震えていたのも。


 その後の日々は一変、最悪なものだった。衝撃的な事実ばかりを、知ることになった。
 あの女は、兄貴の母親だったのだ。俺たちの血は繋がっていなかったらしい。そして、何より、父さんの元恋人だったという事実にショックを受けた。
 当時、まだ10歳程度の子供では到底理解できなかった。
 だが、兄貴はあの女の子供で、父さんの子供ではないらしい。精神的に病んでいたあの女の変わりに育てていたんだと、父さんは言っていた。
 その後も兄貴は何食わぬ顔で生活を過ごしていた。この事実を知っていたのではないかというくらいに。
 何より苦痛だったのは、あの女がこの家に住み始めたということだ。父さんと揉めているのを聞いた。

「あの女のようにして欲しくなかったら」 私と結婚しなさい、と。

 狂っていると思った。でも、俺にはどうすることも出来なかった。
 それから、あの女から暴力をふるわれるようになった。理由は単純だ。俺が、泥棒猫に似ていたから。
 痣は隠して、誰にもバレないように。でも、父さん、兄貴は変わらず、優しかった。それが辛くて、何度だって泣いた。
 そんな時、いつもあの女は言う。
「あんたが悪いのよ? 産まれなきゃ、あの女だって死ななかったのにね」
 くすくすと笑いながら言う女。俺は何も言えなかった。ただ、自分のせいで母さんはいなくなったんだと、そう、心に堕ちるしか、出来なかった。
 兄貴は泣いてる俺を見つけて、いつだって抱き締めてくれた。兄貴だって辛いはずなのに、何も言わず、抱き締めてくれた。

 母さんは俺をどうして生かしたんだろう。いつも疑問に思った。俺は母さんと一緒に死んだってよかったのに。
 その後、俺は、精神的ショックで血を見るのが怖くなり、不眠症にも悩まされ、食欲も落ち、痩せこけていった。
 そんな状況になっても、あの女は病院には連れていってはくれない。兄貴が連れていこうとあの女を説得するが、やはり連れていってはくれなかった。
 昔からの馴染みだった葵も心配してくれたが、俺は何時だって大丈夫。そう、笑いながら答えた。










あきゅろす。
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