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2009-10-19(月)

【秋華】名場面からの暗転

咲き誇る、桜並木の下。
私は、桜花賞を勝った。

梅雨の、曇り空の東京。
私はオークスも勝った。

そして…

今日は、秋華賞当日。
私は今、ここにいる。

皆さん、お久しぶり。
私は、ブエナビスタ。
名前の意味のとおり
素晴らしい景色の淀。

緑の芝を西日が黄金色に
染めてゆく、京都競馬場。

私しか、牝馬三冠馬に
なれる資格はないのよ。
今日も負けられないわ…
私が負けるはずないわ…

またお馴染みのライバル
レッドディザイアがいる。

負けるもんですか！

安勝「よろしく！」

安藤勝己騎手が跨がる。

安勝「今日は牝馬三冠が
　かかる、正念場だけど
　いつも通りにいこうね。
　それで勝てるはずだよ」

安藤勝己騎手が、私の
首筋を、そっと撫でた。

安勝「さぁ、いこうか」

一陣の秋の涼風が吹いて
どこまでも続く青空へと
心地よい空気を運んだ…

第14回　秋華賞(GI)

実況【史上、３頭目の
　牝馬三冠馬が、今日
　誕生するんでしょうか
　夢、期待、あこがれ…
　張り詰めた緊張感が
　この、京都競馬場を
　包みこんでいます。】

歴史に名を残すチャンス
私にしか、ないチャンス。

緊張がはしった…
一陣の風が吹いた。

ガシャン！

【今スタートしました！
…ブロードストリート！
タイミングが、ちょっと
合いませんでした、さあ
何がいくんでしょうか？】

私はいつもより前の位置
宿敵レッドディザイアを
見ながら眈々と追走した。

【ヴィーヴァヴォドカが
先頭、ワイドサファイア
二番手、更には３馬身差
クーデグレイス続いて…
１番人気ブエナビスタは
レッドディザイアの直後
よいリズムで追走です！】

内ラチ沿いの馬群の中を
宿敵を見ながらの追走…

私はなかなか外側に
持ち出される隙間を
見つけられずにいた。

でも、じっくり馬群が
４コーナーをまわって
バラけるのを狙った…

安勝「…ここだ！」

【さぁここで一気に来た
レッドディザイア！！！
さらに、内々を通っては
ブエナビスタ！さーあ！
ここでレッドディザイア
抜け出た！最後の一冠は
レッドディザイアか？！】

安勝さんは私を外側に
エスコートしてくれた。

【ブエナビスタが外から
差を詰めてきているぞ！】

私とレッドディザイア。
力の違いを見せる様に
後続を突き放していき
２頭のマッチレース！
激しい一騎討ちになる。

直線で先に抜け出した
レッドディザイアの外
進路を確保して、私は
１完歩、１完歩ぐいと
差を懸命に詰めていく。

もうちょっと…
もうちょっと！

【三冠か、最後の一冠か
差は一馬身、差を詰める
ブエナビスタ！！！！！
ブエナビスタ！！！！！
レッドディザイア！！！
ブエナビスタかー？！！
２頭並んだーーーー！！】

一歩ごとに差は縮まり
首の上げ下げが並んで
ほぼ同時のゴールイン！

どうなの？
どっちなの？
私は届いたの？

【２強の直線の叩きあい
これは非常に微妙です！
場内騒然としています！】

際どい際どい写真判定。

もう、勝っても負けても
名勝負になったことには
変わらない激戦だった…

ただ…

レッドディザイアの
四位洋文騎手が、今
ガッツポーズをした。

僅かに僅かに、宿敵に
届かなかった気がする。

でもまだ誰もがみんな
確信を持てずにいた…

長い長い時間が流れる…

ようやく電光掲示板に
着順が、表示された。

京都11Ｒ　審議中
１着　レッドディザイア
２着　ブエナビスタ
３着　ブロードストリート

宿敵レッドディザイアに
僅かにどどかなかった…

三冠は、僅か７cmの差で
夢幻と、散っていった…

当然、ショックだった…

「お疲れさん」

私はやりきった。

でも、負けた…

悔しいけど、仕方ない。

脚を余すことなくお互い
力を出しきったんだから。

放送「…お知らせします。
　只今の競走で第２位に
　入線したブエナビスタ
　号は、第４コーナーで
　急に外側に斜行し12番
　ブロードストリート号
　の走行を妨害したため
　３着に降着となります。」

え

ええっ？！

私が走行妨害ですって？！

安勝騎手「そんなに外に
　行ってない。あそこは
　馬群が固まる所だしね。
　納得いかない部分もあるが
　裁決が決めることだから」

いつも紳士な安勝さんが
珍しくぶぜんとしていた。

ブロードストリート号の
藤田伸二騎手は、２着に
繰り上がるも笑顔はなし。
「後味が悪い。(不利が)
なければ突き抜けていた
だろう。立て直してから
どれだけすごい脚使って
いたかはパトロールＶを
見てもらったら分かる」
と嘆き、怒りはなかなか
収まらなかったそうです。

進路妨害、降着…

思い描いていた、夢と
現実の間に折り合いを
つけなければいけない。

それでも、また
明日がやってくる。

この屈辱の１日を
私は、忘れない！

気持ちよく晴らして
みせる、その日まで。

涙で、夕暮れの逆光が
ぼんやりぼやけていた…

つづく