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日記
2015-03-01(日)
スノードロップ

その人は花を愛でるのが好きだった。
庭も、公園も、いつもその人が育てた花でいっぱいだった。
赤いスカートのよく似合う女性。
私も女だけれど、彼女が私の恋人だった。

近くを散歩して、他愛ない会話を交わす。
それだけのデートすら他人に邪魔され、差別されるようになってから、私たちは真剣に悩み始めた。

彼女の叔父さんの家も、彼女の花でいっぱい。
私たちはその叔父さんの家に転がりこんで、電話をした。
自分たちの両親へ。
でも、どちらからも反対された。
絶対に認めるものかと怒鳴られた。
私は両親が好きだった。家族が好きだった。
裏切ったのは解ってる。
でも、それ以上に、彼女が好きだった。

ささやかなデートすら邪魔されるなら、何処にも居場所なんてない。
そう打ち明けると、叔父さんは白い粉を持ってきた。
これを飲めば、永遠に添い遂げることが出来る、と。
彼女はその粉を持って頷いた。
私は死生観に対しては割と冷静で、死ねば何も出来ないこと、それは逃げであることとかを心の中で感じていた。
けれど、粉を持った彼女は思い詰めた表情をしてて、止められる雰囲気でも無かったから。
私もまた、頷くしかなかった。

彼女が粉を全部飲み、私は口移しで半分受け取った。
用意していた水で流し込み、準備は整った。
でも、よくよく考えると、私はこの粉について何も知らない。
毒かな?麻薬かな?と適当な想像しか出来ず、どのくらいの時間で天国に行けるのかも知らない。
……ちょっと不安になってきた。
彼女は粉については何も言わず、笑みを浮かべながら私の腕を引っ張った。

ねぇ、最後にデートしましょう?と。

これが最後で、私たちは死ぬのだと思うと、今までのデートコースがより美しく見えた。
私たちは平凡な街の、平凡な道を進みながら、くるくると踊る。
最後だからと、本当に楽しみながらも『何故死ぬ必要があるのだろう』とやっぱり何処かで冷めたことを考えていた。
私は、死にたくなかったのかもしれない。

最後は、貴女の花の傍がいいな。
私も、そう思っていたの。

叔父さんの家に帰ってきて、花を眺めながらやっぱりくるくると踊っていた。
そのうちに、彼女も私も廊下にぱたりと倒れこんで、動けなくなった。
眠気、というよりは、ぷつりと切れるように。
これで終わりか、と思いながら意識を失った。

気づくと夜になっていて、私はぼんやりと意識を取り戻す。
今は何時か、彼女は無事なのか。
確かめたかったけれど、ちゃんと死ななくちゃならないのにと思い、私はその場から動き上がることも出来ずにいた。

叔父さんと、知らない男の声が複数聞こえてきた。
酒瓶の音。下賤な笑い声。
何かが引っかかった。
生理的な嫌悪感。
そう、私はこれを解っていたのかもしれない。

「おい、チェーンソーか何か持ってこい」

例えば、全部叔父さんが私たちを殺すためだった、とか。
もしかしなくても、このままだと私は、生きたまま細切れにされるのではないか?

「床に転がってるものを刻まなきゃな」

いや、私のことはいい。
ただ……こんな奴らに、彼女が切り刻まれるのではないか……?!

「彼女に触るなッ!!」

チェーンソーの音が聞こえると同時にがばりと起き上がり、私は男どもに向かって叫んだ。
死んでいると思っていたのか、或いは本当はもう死んでいたのか。
男どもは驚いて腰を抜かした。
そんなので許す筈がない。お前らも結局は同じだったのだと。
私は殴りかかった。
それともこれらは全て私の妄想か。

チェーンソーの音は止まず、これより先は覚えていない。


++

……という夢を見ました。百合ですね。心中しちゃう百合です。怖かったー。
3月からはまたバタバタいたします。
完璧に自分用の書庫と化してますが、便利なのでそれでも良いや。


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