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長編V
2007-12-26(水)
†また、逢いましょう†






コツ…コツ…



「沢田綱吉。地面に這いつくばって楽しいですか?まあ、君に似合う姿ではありますが」

抑揚の無い声が聞こえた方に目を向ける。綱吉の位置からは、逆光で相手の顔が見えない。だが彼の存在は、空気だけで分かる。
声を出すのは億劫だが、綱吉はその言葉に苦笑しながら答えた。

「楽しいわけないだろ?でも、疲れて起き上がれないんだよ」
「そうでしたか。新しい遊びかと思いましたよ」
「…そんなわけないだろ」

ゆっくりと近づいてくる骸を目で追いながら、小さな声で独り言の様な調子で言う。

ピチャ…

すぐ側に来た骸は膝を付き、ゆっくりと綱吉の上半身を抱き上げた。優しく髪を払いのけ、額に口付けながら囁く。

「お疲れ様です。帰ったら、ホットチョコレートでも作りましょう。疲れが取れますよ」
「あぁ…お前が作るそれ、好きだったよ。また、飲みたかった」
「何をおっしゃっているのですか。僕は作りますと言っているのに」
「うん、ちゃんと分かってるよ」
「では、何故」
「……そんな事より、さ…骸。…キス、して、欲しいな…」

綱吉は鉛のように重く感じる右手を持ち上げ、骸の頬に触れた。

「…初めて、ですね。貴方から求めて下さるなんて」

綱吉の右手に手を重ね、愛しそうに頬を寄せる。

「そうだっけ?オレはいつも…お前を求めてたよ」

互いに顔を寄せ、唇を重ねる。
骸は優しく綱吉の唇を舐め、それから歯をなぞる。
綱吉が誘うように口を開けば、まんまと骸は入って来た。その心地よさに、綱吉はうっとりと目を閉じる。

「…はっ…、ん…」

唇が離されたとき、綱吉は艶めいた甘い声を溢した。

「ねぇ、綱吉君」
「…な、に?」
「今…の、キス、は…血の、味が、します…」
「うん…ゴメンな」
「これ、は……きみ、の…?」

辺りを見渡せば、そこは血の海だった。
骸のスーツも血にまみれ、白のシャツが深紅に染まっている。

「死ぬ、の…です、か?」
「うん、そうだね…」

綱吉は何処か他人事の様に頷いた。

「……――っ認めない!!」

声を荒げた骸を、綱吉は笑顔で見つめていた。だがその顔は血を流しすぎて青ざめている。

「何笑ってるんですか!!僕はっ…僕は認めないッ……君を絶対死なせない!!」
「死ぬ、よ」
「っ…死なない!死なせたりしないっ…!!僕を置いて逝くなんて許さないッ…」
「何発打たれたと思ってんだよ…もう蜂の巣だ。今生きてるのが奇跡だよ…」

自嘲ぎみに笑い、綱吉は強く抱き締めてきた骸に頬を擦り付ける。その顔はどこか気持ち良さそうだ。
骸の体温が、何時もよりとても熱い。否、自分の体温が無くなっているのか。

「綱吉君…死んだら殺しますよ…っ…」
「ぷっ…何だよそれ」

耳元で囁く骸の声は、震えていた。声だけじゃない。身体中がガタガタと震えている。体の奥底から震えているのようだ。

「オレ、お前が看取ってくれて嬉しいよ」
「な…何、馬鹿な事をっ……僕は君がいないとっ…」
「骸」

骸の言葉を、綱吉は吐息のような声で遮る。
骸は息を飲み込み、じっと綱吉を見つめた。
少し右手に力を込めて自分に引き寄せると、綱吉は骸の耳元で熱い息を溢した。

「お前は生きろ。命令、だ」

そして最後に「愛してるよ」と耳に口付け、顔を離した。だが骸は追うように再び唇を重ね合わせた。
溶けそうなくらい熱い抱擁と、先程よりも深く激しい口付けに、綱吉は嬉しそうに笑む。







そして、骸の頬を血で汚していた右手が、ダラリと落ちた――――…







「沢田綱吉…残酷な人だっ……生きろ、だなんて」

唇を離した骸はそれでも何度も触れ合わせながら、言葉を紡いだ。

「僕を独りにしないで下さい…!!」

綱吉をゆっくりと離し、片腕で抱く。綱吉の穏やかな顔が、少し滲んで見えた。

「いつもみたいに、僕を叱って下さいね。君の怒った顔は、見ていて飽きない」

ベルトから取り出したハンドガンをこみかみに当て、綱吉へ向けて微笑む。





「Arrivederci」






end
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