[携帯モード] [URL送信]
心の臓に触れた棘
2010-12-03(金)
No music no life 5


ニコリともしない。きっと表情筋が無い。瞬きの回数は1時間にたったの3回。口数はべらぼうに少ない。と言うか下手したら内蔵システムが大破するその時まで喋らない事もあるかも……歌うたいのボーカロイドなのに……浦原は助手席に乗せた新しいボーカロイドを横目でチラリと見た。

「…シロさん?」
「イエスマスター」
「や…アタシの事は喜助って呼んでもらえますか?」
「コンプリート。キスケ」

うーん…良い意味でも悪い意味でも機械的だなぁ…。苦笑いをしながら浦原は思い、今家で留守番をしているであろうあの子供とは大違いだと思いを馳せた。
途端に静まり返った車内、何か音楽をかけようにもいつもならイチゴと一緒なのでオーディエンス内にデータはほとんど残っていない。

「シロさんって、何か歌えます?データ入れないと駄目かな?」
「ノープロブレム。」

やはり何の感慨も浮かばない表情でそう言った後、シロは窓を開けてそこから手を出す。

「ちょっ!危ないから!手は出さない!」
「…?音を集めている」
「はっ?」

前を見ないといけないけれど、窓を開けられ手を出されたので浦原の神経は全てシロに掻っ攫われてしまう。戸惑いを隠せない浦原を横目に見ながらシロは瞼を閉じた。

「コンプリート」

急に、濁声が透き通った音になった。
それは浦原の鼓膜を通り、脳髄にまで響く様なそんな不思議な音。
シロは緩慢な動作で窓を閉め、それからゆっくりと瞼を開く。

「わ、……」

車内に広がった音の洪水。歌ではなく、これは音源の複雑なラインを結んだテクノサウンド。街中の音を吸収し、それにリミックスをかけてメロディとして紡ぐ。
シロのかけているヘッドフォンから音が形となって出てきている様な気がする。

「すご…い」

ずれるでもなければ共鳴する事も無いスケールの上で踊る音源達が今、車内に散乱し、そして各々が鼓膜の中に残留を散らせて行く。
初めてテクノサウンドを聞いたがこれほどまでとは……浦原は呆然とシロを眺める。

「マイサウンドイズサイケデリック」

にんまりと笑んだその表情は、相変わらず機械質ではあるがどことなく人間臭い。
凝視している浦原に向けて薄い唇をゆっくりと動かしたシロは、音の無い濁声でLSDと言った。



























ちょっとマッドサイエンティストちっくに^^^


[*最近][過去#]







[戻る]

無料HPエムペ!