SS×Short Short
2009-03-02(月)
翡翠-TRC-
「じゃあね、小狼」
「はい、また」
「もうっ!!敬語はダメ!」
「すみ…ごめん。また、サクラ」
俺が名前を呼ぶと、満足そうに笑って帰っていく。
彼女が向かう先は、この国で一番大きくて立派な建物。
リーンゴーンと、一番高いところについている鐘が、夕刻の時を知らせていた。
サクラを見送りながら、苦笑いを繰り返す。
体の中のどうしようもない切なさをごまかすように、ギュッと手を握った。
家の扉を開けると、一人暮らしの小さな部屋。のろのろと歩いて、ベットに座った。
そのうちより、今のうち。
この気持ちも、今のうち。
こんな気持ちはまずいと、分かっている。
戻れなくなる前に、なくしたいのに。
もう、戻れないと理解り、なくしたくないと願う自分がいる。
「サクラ…」
夕日を背にしたあの綺麗な翡翠の瞳が、忘れられない。
――――
「次会った時言うから、待ってて、ね」
真っ赤になった、さくらの言葉の続きが気になって、
もしかしたら、俺と同じ気持ちなんじゃないかと、期待してる自分がいた。
次じゃなくて、今がいい。
いつかじゃなくて、今がいい。
こんな想いは、叶わないと分かっている。
覆せない差が、壁が、俺たちの間にはあるのに。
それでも聞きたい。知りたいと思う自分がいた。
「…好き、だ」
あの翡翠の瞳が、柔らかく笑ってくれることを祈って。
君の気持ちを、知りたかった―――。
―翡翠―
(でも、次は来なかった。)
『翡翠』ヒトトヨウ
――――――――――
一巻の小狼サクラです。
身分差っていうのは二人にはどうしても崩せない壁で。
それでも隙って気持ちは止められないと思います。
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