異・戦国史

妄想掃き溜め専用地下室





2008-11-26(水)
君が刃に


昨晩から降り続けた雪が、今朝には見事に白の情景を作り出していた。

この趣きある光景に、常人ならば一句詠みたくなるところであろう。
しかしこの当主は違った。

「義弘!雪合戦やるぞ!!」
「えぇー。」

いかにも嫌そうな顔をする次男を、島津家当主、貴久は満面の笑みで庭へ引きずっていった。


―キィンッ―

雪合戦と言えば雪玉を投げ合うのだか、それとは違う硬質な音。

しかしこの場合、雪合戦とは島津家に伝わる兵の鍛練法。
前日に地中に埋めた刀を雪中から掘り出し、打ち合うものである。

「腕を上げたな弘!」
「…っそう言う父上は少々鈍られたのでは?」
「はっ、言いおるわ!」

他人から見たら本当に親子かと疑うほど、二人の太刀筋には容赦が無い。

払い、薙ぎ、そして突く。
攻める義弘に対して、貴久は防戦一方であるように思われた。

(確かに強くなった、だか…―)

義弘が一太刀を受け流され、体勢を崩した一瞬の隙を見逃さなかった。

「…―!?」
「勝負あった、な。」

貴久の切っ先は義弘の口元に寸でのところに突きつけられる。
義弘も先程とは違い、少年らしく悔しげな顔になった。

「…父上にはやはり敵いません。」
「まあお前は兄弟の中では一番だがな。」

顔をあげようとした義弘は、いつまでも切っ先を下ろさない貴久を不審に思った。

「父上?」

見ればその目は真っ直ぐに義弘を見ている。
「そうだ、お前は兄弟の中で一番強い。」

父親の言わんとしていることが分からず、黙って次の言葉を待つ。

「だから義弘、お前は義久を護れ。」
「え…?」
「久はな、将来の当主として生まれ、期待され、教育を受けてきた。」

「弱味も見せず、愚痴も溢さない。そういう奴だ。」

「だが、家を守る事は出来ても自分を護る術を知らない。」
「…だから俺に護れと言うのですね。」

貴久がゆっくり頷くと、二人は互いに確認し合うように向き合っていた

…のだが。

「…っ父上弘兄ころさないで――!!!」
「「は?」」

うわぁ――ん!!と大声で泣いているのは末っ子の家久だった。

「どげんした家久!」「久兄ー、父上があぁ…。」
「……何してるんですか。」
「何って稽「…いや義弘血が出てるとね。」」

長男の冷静なツッコミにより漸く気付いた口元の切傷、いつの間にか白雪に映える鮮血が滴っていた。

「っいってええぇ!!!」
「わー義弘すまん!!」

(それが運命であるなら、従おう)

―君が刃に―


配布元→狐来
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