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日々の足跡
2008-12-30(火)
ある電車にて



 別にふざけているわけじゃなく、本気で。引かれるのを承知で真面目に。
 とにかく、誰かに抱きしめて欲しかった。いや、抱きしめたかった。……そりゃ男性は流石にキツイけど。
 一人でぼーっと眠気に襲われていると、そんな事を切実に願ってしまう。
 とにかく、なにか胸にぽっかり抜けた穴のような感覚を、なんでも良いから満たしたかった。
 我ながら女々しい人間だなぁと心底思う。でもそう願っているのは事実だ。
 きっと身も心も疲れているのだろう。加えて欲求不満で人恋しかったのかもしれない。
 だからこそだろう。


「だったらあんたのセフレにでもなってあげようかぁ? この変態」


 久しぶりに再会したそいつと冗談混じりで話していた時に放たれたその言葉に、一瞬だけでも魅力的なものを感じてしまったのは。
 いや、もう正直ダメかもしれない。










「流石童貞は欲求不満アピールが激しいわね〜、売れ残りの犯罪者予備軍さん」
 先のセフレ発言で固まってしまった俺を怪訝な目で見ていたそいつについ最近感じていたことを話すと、開口一番にそう言われた。
 だが俺だってマゾではないので黙ってはいられない。
「おーおー流石処女を捧げた人は余裕な発言ができて羨ましいですね〜、って言ってみるー」
「あらあら、なんなら君の貞操を奪ってあげても良いのよ〜? 寂しい一人プレイは虚しいだけでしょ?」
 にしし、と楽しげに笑いながらそいつは言う。たまたま電車の向かいに座っていた30代くらいのサラリーマンは、俺達の会話になにか危なげなものを感じたのか新聞紙に顔を隠してしまった。
 でもあの人、耳はこっちに傾けてるんだろうなぁと思いつつ素直に返す。
「…はぁ。確かに虚しいっちゃ虚しいけどさ……」
「ま、あんたが言ってるのはもっと純粋な被害者気取りの欲求でしょ」
 かぶっていた帽子の唾で表情を隠しながら、さらに続ける。
「やめときなさい。私にそれを求めたところで、私はあなたの望み通りのことはできないわ。――それでもって言うなら、精一杯奉仕してあげよっか? 無駄に余ってるんでしょ? な・か」
 途中からわざわざ耳元で言ってくるこいつの顔を見ていると、とてもからかっているようにしか見えない一方、半分本気なのが解ってしまうから怖い。
「そりゃまた随分魅力的なお誘いだけど……もとより、お前にそこまで期待してねぇよ。それに、お前にだけは絶対に童貞はやらねぇよ、このオールタイムで欲求不満の変態女」
「あら、やっぱり初体験は初体験の娘としたいタイプ?」
「誰がそんなめんどくさいパターンでやるか」
「じゃあやっぱり非処女?」
「埒があかねぇな、お前との会話は」
 なんでこれから従兄弟の家に向かうという時に、こんなのと電車で鉢合わせる羽目になるのだろう?
 どっちもどっちだけど、ここまで変態ぶりが酷いと流石に直さないとなぁと本気で悩んでしまう。
 はぁーそれでもこの虚しさはどうにかならないかなぁと溜め息を吐く。
 隣で「えーじゃあ童貞は墓まで持って行くんだぁ〜カッコイー☆」と割とスレンダーな身体をくねくねさせてはしゃいでいる奴は無視して、終点までさっさと寝る事にした。


 ……うん、もう俺のことはそっとしておいてあげて。
 最近ヤケになってきてるんだと思う。最初に語ってた気持ちは一応本気さ。
 そろそろ寂しさも限界かも。



「ある電車にて」へのコメント

By あおつきかなで
2008-12-31 19:31
誰かに腕を貸してもらいなさい。
そして心ゆくまでぎゅーってしなさい。
僕はそれで自分を落ち着かせる。
寂しいときは、誰か信頼できる人をぎゅーっと、ね。
pc
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