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日記やネタ倉庫 思い付いた物を書くので、続かない可能性大。
2013-07-02(火)
とある高竜の話2

竜とはこの世界最強の生物であった。

その強靭な翼は幾夜も天を駆け、逞しい鰓からは様々なブレスを吐き、伝説の武器でさえ弾き返す鱗を持つ。

竜は二つの姿を持ち、一つは獣型で戦闘能力を全開にした姿。一つは人型で日常生活を送る上でとる力を抑えた姿だった。人形型になろうとも、竜の特徴は消えず、その体の各所は鱗に覆われ、頭には角が生え、しなやかな尻尾も生えていた。体つきも微妙に違い、踵は高く広く常に爪先立ちで歩き、背中には翼を持っていたらしい。

しかし、現在生存している竜は、正確には極少数である。狂い竜との戦いで数を減らした彼等は、高竜を失った事に絶望して荒れた。ある者は竜同士の決闘に明け暮れ、ある者は深い眠りについて、ある者は自ら死を選び、竜は更にその数を減らした。

今の世で一般的に竜と呼ばれる者達は、厳密には竜ではなく竜人(ドラゴニュート)である。出産機能を持つ高竜を失った竜達の一部は、特性の低い人間や獣人と交わった。何故か産まれてくるのは雄ばかりで、竜達は仕方なく人間や獣人と交わり続けた。それは竜の血を交ざらせない代わりに、血が薄まる事となり竜人が生まれた。

竜人達は幾世代の交わりの中、寿命が短くなり力も衰えてしまい、今は人間とほぼ変わらないようになってしまった。獣の姿に変化することが出来なくなり、持つ能力は頑丈な肉体に強い膂力、高い魔法能力と戦闘能力を持つ程度だ。竜である証は、僅かに残った申し訳程度の鱗と硬い表皮に覆われた爬虫類の羽根のような耳だけである。

しかし、中には時折、強い特徴を持つ個体が産まれる。先祖帰りとも言われる彼等は、竜の姿にはなれないが森羅万象を操る力を持ち、それ達が【龍】の名を与えられた。

火の力を持つ竜人は【赤龍】水の力を持つ竜人は【水龍】風の力を持つ竜人は【緑龍】土の力を持つ竜人は【黒龍】治癒の力を持つ竜人は【白龍】と呼ばれ【五色】と言われて尊まれた。

その龍の中に、デクノボウと呼ばれる人物がいた。彼は赤龍の親から産まれながらも、龍の特徴を殆んど持たずに産まれ、唯一の龍らしさと言えば額に輝く三枚の鱗と、並外れた怪力と巨体であった。

森羅万象を操る術も使えないし、空も飛べない。だが、三メートルに近い並外れた巨体と、岩すら片手で凪ぎ払う怪力故に、彼は末席ながらも龍の名を与えられていた。だがしかし、術を操れない彼は、色を与えられない【無色】という最下層の【龍】でしかなく、龍の中では蔑ろにされていた。

龍達が通う学校では名家の子息に馬鹿にされ、魔術のない彼は知恵と優れた判断力を活かして力の弱い竜龍達のボスとなり、子息達と日夜戦っていた。そんな彼の名はウボディアス。成人した今では聖地守護隊の隊長をしている。

ほとんどの龍は政府高官や団長等の高位軍人をしている中、聖地といえどもたかが守護隊の隊長とは、龍としては有り得ないことである。だが、ウボディアスは現状に満足していた。龍だからと言って不向きな職場に行かされずに安堵さえしていた。

人には向き不向きがあると言うのが彼の持論だ。適性のない職に就くよりも、適性のある職に就いた方が自分にも周りにも良いと思っていた。よって、彼にとっては今の仕事はまさに天職であった。

今日もまた、彼は部下と一緒に聖地、別名【旧高竜之宮跡地】を巡回していた。本日は目出度くも新人が入って来る日なので、彼等に敷地の簡単な説明をしていた。

「まあ、これで全部だ。分かったか?新人」
「はいっ!」

バラ園にて新人達に朗らかに笑いかけるのは、小山のような巨漢である。聖地に誰も住まなくなってから数百年経ったが、丁寧に手入れされている為、木造の宮殿や石造りの建築物は美しく保たれ、その彩飾も各場所に植えられた華々も色鮮やかなままである。

彼が居るのは、宮殿の中に作られたバラ園の一つである。数人の隊員がいるが、少女が好きそうな可憐な花園にむさ苦しい男達が居るのはなんとも言えない違和感がある。

そんな中、一際違和感を放つ人物がいた。彼だ。三メートル近い身長は、体に恵まれた隊員の中でも頭二つは高い。その体は鎧のような筋肉に覆われており、二の腕が女性の腰ほどもある。だからと言って筋肉達磨という訳ではなく、手足は長く均整の取れた肉体をしており、例えるならば獅子や虎のような重厚な体つきだ。

黒い制服は派手に着崩されており、上着は白いシャツの上から肩に掛けているだけ、下半身は制服ではなく私服らしい無地のズボンを穿いており、靴も他の隊員とはデザインの違う武骨な物だった。これは別に彼は規則を守らない訳ではなく、単純にサイズがないのだ。

そんな野性動物のような凶悪な体つきのわりに、彼の顔立ちは甘かった。太い眉と無造作に伸ばした髪の色は、深みのある飴色であり、少し垂れている瞳は翡翠のような緑。厚めの唇の右端に黒子が一つあり色気を出していた。

「さーあ、見廻り行くぞ野郎共」
「うす!」

そんな彼が率いる隊は、落ちこぼれとは言わないが複雑な事情を持つ者達が多かった。先代国王の元王子、龍の力を無くした者、とある貴族の御落印、没落貴族の三男、有能だからこそ中央には置けない者が寄越されるのがウボディアスの隊だった。

プライドも実力も高い彼等だったが、ウボディアスはうまく纏めていた。一部の隊員には【ゴリラ】とか【ウドの大木】とか言われているが、ちゃんと慕われていた。そんな問題児達を宥めながらウボディアス達が見廻りを続けていると、侵入者を告げる笛の音が聖地に響き渡った。

「また盗掘者か……」

ウボディアスは舌打ちした。

竜人にとって、今はなき高竜は憧れの存在だ。僅かに生き残っている竜の翁達の話では、高竜がいた時からまるでアイドルのように慕っていたらしいが、今では崇拝に近い物がある。実は高竜は一体のみ生き残っているが、その高竜は王宮で手厚く保護されている為に、一般庶民は見ることも出来ない。

だが、高竜を求める本能は血が薄れても無くなることはなく、毎年高竜が使用したハンカチやら食器やらが高値で取引されている。夏の祭典には、様々な高竜グッズが売りに出され、大金を手にした男どもが買い漁ったりする。ちなみに、意外と良い性格をしている高竜が許可したもののみ売られているが、中には下着やらの非合法品が売られたりする。当然ばれれば重い刑罰が待っているが、需要も供給も無くなることはない。

そんな竜人達であるから、あの事件で死んだ高竜達の遺品を売って儲けようとする輩は多い。聖地を荒らす事などは竜人は絶対やらないが、人間や獣人達が荒らしに来る。そして当然ながら、竜人の聖地に忍び込むのだから相手もそれなりに武装している。

ウボディアス達は、直ちに現場に駆け付けて盗掘者を捕縛した。幸いにも今回の盗掘者は武装はしておらず、部隊には負傷者はでなかった。だがしかし、大変困る事が起こった。

「隊長、どうするんすかこれ?」
「ううーん」

各自、耳やら尻尾やらを力なく垂らしている隊員達が見つめる先には、壁に大穴が空いていた。ウボディアスでさえも入れそうな大穴だ。先程、盗掘者に放ったウボディアスの蹴りが老朽化した石壁を突き破ったのだ。頑丈な岩の壁を蹴り破るとは、とんだ怪力と丈夫な体である。

ウボディアスが、飛んでいくであろう給料を考えながら唸っていると、穴を調べていた隊員が彼に呼び掛けた。

「隊長、ちょっとおかしいっすよ」
「え?俺の頭が?」
「いえ、自虐ネタは対応が困るんで止めてください」

ギャグをバッサリと切り捨てられて、落ち込むウボディアス。

「この穴、元々開くようになっていたみたいっす。内側に開閉装置がありますし、どうやら扉を外から塞いでいたのが、弱っていた鍵が隊長の蹴りで開いちゃっただけみたいっすね。中も通路になっていますし」

部下の言う通り、穴の向こうには通路が広がっていた。すると、中を見ていた別の隊員が怪訝な顔をした。

「隊長殿、何やらおかしな事に中がなっておるぞ」
「あん?」

白眼がない澄んだ蒼い瞳をした元王族の部下は、穴の中に頭を突っ込んで匂いを嗅いでいた。竜の角と目を持つ青年は、中を指差して隊長に警告する。

「刻狂わせの術が掛けられておる。中と外の時間が違う」

そう言った部下は、自分の髪を一房抜くと穴の中に差し入れた。すると、穴の外側の髪が朽ちて崩れてしまい、内側の髪はそのまま残り床に落ちてしまった。

「どうやら、中の時間が遅くなっているようだの」
「ならば、やべぇな。結界が得意な奴は周りを囲め、新人は団長に報告を」
「はいっ!」

ウボディアスの指示に従い散開する隊員達。結界が得意な隊員が、懐から出した【結界縄】を張り巡らすのを見ながら、傍らの隊員に尋ねる。

「なあ、これは何だと思う?」
「恐らく、前時代の遺産かと」

竜の鬣(たてがみ)を持つ副官の言葉に、ニイと笑うウボディアス。彼は高竜にそれほど興味がない珍しい竜であり、高竜の遺産には興味がない。だが、長年見つからなかった歴史的発見には、柄にもなくワクワクしていた。

「楽しみだ、何が見つかるんだろうな?」
「さあ?ただの物置小屋かもしれませんよ」
「いや!俺は信じてる!なんか凄い秘宝とか出てくる!」

キラキラとした瞳で語るウボディアスに、困ったように肩をすくめる副官。そんな彼等に一人の隊員が慌てて近寄ってきた。

「すみません隊長!」
「どうした?」
「なんか中から声が聞こえて来るんです」

それが、ウボディアスと高竜との出逢いの切っ掛けになった言葉だった。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

「開いた……」

歌っていた人物は、ヌイグルミを抱き締めたまま立ち上がった。久し振りに嗅ぐ外の空気の匂いに、感じる空気の流れ。人物は嬉しさのあまり尻尾を左右に振りながら、弾むように卵に話しかける。

「やった、やっと来たよ皆!」

喜ぶ人物は扉をくぐって走り出す。

「良かった無事だった。お母様お母様」

人物は泣きながら通路を駆ける。

「わたくし頑張りました。お母様、お母様。寂しかったけど、お母様の言われた通り妹達の世話を頑張りました。だから、だから、お母様、頭を撫でて、ぎゅっとしてください。良かった、良かったよぉ。お母様、生きてた生きてたぁ」

泣きながら母の無事を喜ぶ人物。だがしかし、角を曲がって人物が見たのは温かく微笑む母ではなく、黒色の制服を着た男達。
「とある高竜の話2」へのコメント

By 染井吉野
2013-07-02 23:36
凄く好きな感じのお話です!
続きが楽しみ♪
P04B
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By 白鳥
2013-07-03 00:53
使用済みハンカチ… 崇拝ってそっちwww
オタな竜人、イイと思います。

ママとやっと会えると思ったら巨漢とかガッカリ感半端ないですねw
でも隊長好きです!ニッチかつ、ドンピシャな設定。流石、春子さん!(≧∇≦)
次話にwktkがとまりません。2424お待ちしてます。
pc
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By 羽柴煌
2013-07-03 08:26
これどう考えてもガチバトルお約束系;;
取り敢えず生き残りの高竜守り隊の結成ですね。聖地守護隊華麗にジョブチェンジ。
pc
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By ハヤ
2013-07-07 00:18
うおお何コレ続きが気になる!
主人公も隊長もキャラ好きです!!
SH001
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