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日記やネタ倉庫 思い付いた物を書くので、続かない可能性大。
2013-06-28(金)
とある高竜の話

竜とは二種でなりたつ。

高竜と低竜だ。

低竜は、狩りや戦闘等の肉体労働に従事する低位の竜で、数も多い。その役割の為か全員が雄である。

高竜は、低竜が仕える存在である。彼等が持つ優れた力は、精霊さえ魅せられる楽曲や美術などあるが、一番は竜の子供を産む事だ。

高竜は低竜に自身の世話をさせる代わりに、その身にて次世代の竜を作り出す。凄まじい力を持つ生物である竜を生み出す事は、竜といえども簡単ではない。

全てを生殖能力に捧げた為、戦闘能力は皆無に近い。彼等は一生を子を生み育てることに費やす。高竜が交わるのは選ばれた者のみ、低竜は高竜を守り、高竜は低竜を慈しむ。

それが永遠に続く筈だった。

だがしかし、とある竜が狂った。魔王との戦いで英雄となった彼は、勝者の権利として高竜達を独占してハーレムを作ろうとした。突然高竜達の宮に部下を引き連れて現れた狂った竜は、高竜為を監禁し高竜達が夫と産んだ卵や子供を殺した。

そんな竜に低竜達は怒り狂った。

怒り狂った竜は、宮に押し掛けて高竜を取り返そうとした。宮の中に閉じ籠り抵抗していた竜だったが、低竜達の死をも恐れない攻撃に追い詰められた。狂った竜はとんでもないことをした。愛した高竜達を一生自分の物にする為に、高竜を殺し自害したのだ。

低竜達が、狂った竜の宮殿になだれ込んだ時には血の海が広がり、全てが終わった後だった。美しい高竜達は、互いを庇うように華奢な体を絡ませて生き絶えていた。

それから竜は増えない。

戦いで数を減らした彼等は、穏やかな滅亡の道を歩んだ。そして、残った低竜達は人間や獣人達と交わり力も薄れている。

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ソコは広い空間だった。薄暗い中には星空のように輝く小さな光が無数にある。石を積み上げただけの壁に、光る小さな石が組み込まれているのだ。

灰色の壁や床は一見すると武骨だが、美しい布や装飾品が飾られており殺風景ではない。中央には巨大なベッドが置かれ、それは白と赤のシフォンが幾重にも敷かれたような豪華な物だ。それを中心にクッションやらが散乱しており、壁際には巨大な本棚が幾つも置かれている。

特に、色とりどりの可愛いらしいヌイグルミが大量に置かれているのが印象的だ。ヌイグルミ達はカップケーキを持ってパーティーをしていたり、玩具の道具で家事をしていたりして各々の日常を演じていた。

そんな中、歌声が響いていた。それは美しい旋律の歌だった。だが、その声は男性とも女性とも言えない不思議な声だった。歌声はベッドの中から聞こえ、人影も見える。だが、天蓋から幾重にも垂れるベールによって中はよく見えない。

ベールの中でその人物は歌っていた。歌を歌う度に、ベッドの中心で踞る人物の尻尾が優雅にユラリと揺れる。人物は手を伸ばして自分の周りの物を撫でる。優しく優しく撫でるソレは、まるで宝石のような光沢のある水色の卵だった。一抱えある卵を抱き抱えながら、人物は鼻歌を歌う。

卵は一個だけではない。そこには人物を中心にして半円状に数十個の卵が置かれていた。卵は様々な色をしており、それはまるで虹が卵になったようだった。人物は一つ一つ丁寧に撫でながら話す。

「妹達、お母様はまだかな?」

ポツリと呟きながら、翼を広げた人物は寂しげに囀ずる。人物はあの事件からずっとずっと此処に居た。生き残った卵達と一緒に、此処に入れられて母に隠れるように言われた。それからずっとずっと此処に居た。宮の隠し部屋。高竜達にだけ伝わる避難部屋。

「大丈夫、もし【アイツ】が来たら私が守ってあげる。その為にこの体になったんだもの」

人物の顔が醜悪に歪む。かって見た光景。兄達や弟達を殺した悪竜の姿。殺させない、この子達だけは殺させない。可愛い妹達の為に戦える体を願った。

その人物は歌を歌う。妹達を守りながら、母達を待つ。かって少女であったソレ。精霊から愛される華奢な体や、柔らかい肉体、美しい顔立ち、澄んだ美声を捨てて男のように成長した彼は笑った。


「とある高竜の話」へのコメント

By タピオカ
2013-06-30 19:59
とってもツボなお話です!
続き楽しみにしています
初めてのコメント失礼しました。
pc
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