Dust
短文乱文でSSSやボツネタ等 いきなりブツギリで終わっている場合も有
2009-03-25(水)
前世パロ…?(晄優)





黒に近い灰色の視界を、瞼の往復運動で瞬かせれば、光の反射を受けて細める。
太陽は今日も輝かしく煌き、時折雲にその顔を隠しては再び地上へ恩恵を与え続けるのだろう。
肌の表面を撫でる生温い気温に眉をひそめる。喉がカラカラに渇くも、白湯を貰ったのは数刻も前の事だから口にするのは好ましくない。
乾いた唇の表面を、申し訳程度に舌先で湿らせる。零した息は空気に溶けて消えていった。
起床の切欠となった日差しは、僅かに開いた障子が原因だったらしく、その隙間を埋めんばかりに広い背中が障子の向こうに居座っている。


「……ぁ、き」


起き抜けの上に渇いた喉では酷い掠れ声しか出ない。
本来それは声としての役割を欠片も成していなかったに違いない。
だというのに、広い背中はぴくりと動き、次いでその背の持ち主がのそりと顔を此方に向けてくれた。
そんな些細な動きだけで泣きたくなる位安堵すると言ったなら、その顔はどのようなものになるのだろう。


「起こしたか」

「…………ん、ん」


小さく頭を振る。やはり掠れたままの声に、振り返った男が小さく唸った。
それでも男の顔は逆光で見えない。きっと難しい顔をしているのだろう。
男が一旦前を向き直し、上半身を屈めさせる。ざばりと水音がしたのは一体どういった訳だろう。
草履を脱いでいるのか、ざりざりと砂利の音が聞こえてきた。
障子が引かれる音と共に、視界にだけ入っていた陽光が己の身を横たえた寝具全体を包み込む。
今日はいい天気だ。確か自分が眠りに落ちる前は雨雲のようなそれが密集し空も暗かった筈なのだけれど。
天候の変わりやすい季節と言ってしまえばそれまでではあるが、それでも、都合良く考えるのであれば男が太陽を連れて来たのだと思えてならなかった。


「……白湯、を」

「あぁ、今丁度新しいのを貰って来た」


起きられるか、と問う男に頷いて見せると、首と背中を支えてくれる。
どちらにしても自力で起きられるとは自分でも思ってはいないのだけれど、相手が同い年の幼馴染となるとどうにも気恥ずかしくなる心持ちに慣れる事は未だにない。
劣等感などという薄っぺらい負の感情は幼い頃に出し尽くしてしまったのに。
小さな器に注がれた液体を、手ずからでこくりと口にする。咽ないようにと一定の間隔で与えられるそれを全て飲み干すと、漸くまともな声が出そうだ。


「ずっと其処に居たの…?」


起こしてくれればよかったのに。
言外に含んだそれを敢えて無視したのか、それとも本気で解っていないのか。
男は太陽のように惜しみなく、その顔に笑みを乗せた。


「今日は西瓜を持ってきたんでな、冷えたら起こそうかと思ってた」

「冷えたらって……」

「盥に水張って、そこに置いてある」


ついでに涼んでもいたのだろうか。
先程の水音は浸からせていた足を引き上げた音だったのだろう。
手ぬぐいで拭いたのだろうが、着物の裾が僅かに湿っている。
ちゃんと捲ってから足を浸らせれば良かったのに、大抵の場合この幼馴染は豪胆が過ぎるのだ。


「いつもごめんね」

「謝るんじゃねぇ。迷惑だったら最初から来ねぇよ」

「……ありがと」


肩を竦めて大袈裟にしてみせる男の気遣いを垣間見る。
それに甘んじるのを申し訳ないとは思いながら、甘やかして貰えるうちだけでもと自分は未だにこの男から離れようとはしないのだ。


「今日はお天道さんもいい具合みてぇだし、後で散歩に出るか?」

「そうだね……それも、悪くないかな」


眠りに落ちる前に比べれば、具合は良い方だ。
例え具合が芳しくなくとも、彼が来てくれたのだから寝てばかりではいたくないのだけれどそれは言わないでおく。
言ったが最後、気を遣わせてとか妙な気を回して暫く顔を見せなくなるのだろうから。
寝たきりに等しい自分に会いにくる人間など、この幼馴染位だ。
家の跡継ぎとは言え、生まれた時から病気がちの上に今では外に出るのも億劫になっている一人息子を気遣う家人も居ない。
彼が来なければ、自分は寝て起きて、そうして一人の空間でゆっくりと脳を腐らせ死んでいくばかりだ。


「……優?大丈夫か」

「…ん。今年の収穫も良さそうだね」

「あぁ、配給が行き渡ってる。子供も元気に遊び回ってたぞ」


平民である者にはなかなか回ってこない甘味や果実を、こうして持ってくる彼は正にその平民であり。
自分の家は元々平民ではあったが、親の親のそのまた親の代から成り上がり商家になったのだという。


「…君も元気そうで何よりだよ、晄」


心から思った事を、心のままに伝えた。
そうすると、晄は困惑したように、はたまた照れたように首筋を撫でてみせる。

付き合いが長いからこそ、それを後者だと判断して、おもわず笑った。




僕はこの時、紛れもなく幸せだったのである。
















前世パロというか…まぁ、そんな感じです。
もうちょい続きますが、ひとつひとつ繋がっていないので一旦ここまでにします(汗)


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