LOGICAL×BURST
By マギー
2017-01-15 01:28:51
#000『月の無い夜、夢の跡には』
ねえ、今日はとても幸せな夢を見たんだよ。
あの頃みたいに一緒に食事をしたり。
本を読んだり。二人で買い物に出掛けたり。
海が見える、あの小さな家で
まだ君と普通に暮らしてるんだ。
夢の中でも俺は。バカみたいに君に夢中で。
君はやっぱり。俺に冷たくて
いつも通り。あしらわれてしまうんだけど。
・・・本当は誰よりも優しくて。可愛くて。
俺を大切にしてくれていて。
とても、幸せな。そんな夢を見たんだ。
『・・・』
『イザヤ。覚えてるかな。初めて食事に行ったあの店。先週、町外れに移転したんだ』
『・・・』
笑いもしない。泣きもしない。
ベッドの上で黙って俺を見てる君の目に
俺は映っていない。
ただ、息をして。そこにいるだけ。
握った手が握り返されることも
少し態度の悪い言葉が返ってくることもない。
静かに、ただ、そこにいるだけ。
『イザヤ』
『・・・』
今はもう。自力で動けない彼に
悲しみが込み上げてくる。
昔のように触れてはくれない。
抱きしめても殴られはしないし
嫌味の一つすら返してはくれない。
幸せな夢の後には残酷な現実があって
そのどうしようもない現実に
打ちのめされてしまう。
『イザヤ───・・・』
ただ。好きで好きで、どうしようもなかった。
ずっと一緒にいたかったんだ。
何を無くしたって君が隣にいてくれたら
それで良かったのに。
それを望んでいた筈なのに。
俺は、今。間違いなく孤独で。
何もかも全て独りよがりで。
己の無力さに唇を噛んでは
惨めにむせび泣いている。
悲しみにうちひしがれても救いは無いのに
夢の跡に咲くものは底無しに残酷で
その虚しさには、声が枯れるまで泣き叫んだ。
『だから、言ったろう。せいぜい頑張れって』
悪魔は、俺を嘲笑っていて。
同時に何処か見下していて。
『不毛だな、無能』と
イザヤの隣に座って肩を竦めた。
彼の髪を指に絡めて遊びながら
楽しそうに鼻歌を歌ってる。
俺とはまるで対照的に。
あの日、選択を間違えた俺に残されたものは
たった一つ大事に出来た愛しい人の抜け殻。
俺が守ろうとしたものの残骸。
俺と彼が共に生きる事で
犠牲になったのは、彼の心だった。
『お前。本当バカだね。俺だとは思えない。何の為に複製を渡したと思ってる?』
『・・・・』
『因果律は変わらない。お前ら二人が死なない未来を選ぶなら必ず何か失うよ。そう言う風に出来てる。何も失いたくない、何も払いたくない、じゃあ。道は開けないんだよ。代価は常につきまとう。それを間違えるからこうなるんだ』
『・・・・』
『まあ。バカだから手探りなんだろうけど。お前は好きなだけ失いな。無くして無くして絶望しな。そしたら最善が見えて来るだろうから』
『・・・・っ』
『俺は、こんなロキ君も有りだけど。お前は、違うんだろ?ヴィルヘルム・テスタメント』
『・・・、』
『だったら。幾らかチャンスをくれてやる。神に挑めば幾分、不利な戦いだから、目には目をって。多少の贔屓はしてやるよ。俺が情勢に手を出すのは管轄外なんだけど。まあ、同一のよしみだな。だからお前、せめて俺ぐらいまで成り上がってみろよ。生半可じゃ、ロキ君は救えない』
『・・・、タナトス』
『あ?』
『イザヤに・・・ロキに、選ばれなかったお前は・・・幸せか?』
『お前。くっだらない事訊くね』
『虚しく、ないか?』
『生憎。お前と違って俺には、それ以外もある。虚しいなんて思った事無いね。ロキ君はイザヤ君と一緒で不幸の塊みたいな人だけど。まあ、家族と楽しくやってるよ』
『家族・・・』
『俺は、可哀想な彼が大好きだ。泣いて泣いて、馬鹿みたいに絶望してる彼が大好きだ───けど同じぐらい、楽しそうな彼を見てるのも好きだ。家族といる時は本当に幸せそうに笑うから。その中に俺がいようがいまいが、そんなものは関係ないね』
『・・・、やっぱり好きなんだな』
『ああ。俺の愛は深いぞ。まあ、ロキ君にだけじゃねぇけど。第四十八章。ヴィルヘルム・テスタメントの可能性について。これが俺の項目に書かれている以上は俺も役割を果たさないとならないしねぇ。だからまあ。せいぜい頑張ってくれよ。こんな未来は嫌なんだろ?』
『・・・、』
『全ては、あの夜に繋がる。そこに至るまでに、最善を築き上げろ。因果律は変わらないが、稀に変動した可能性が生まれる。即ち「奇跡」は別問題だ』
『奇跡・・・』
『奇跡とか口にしちゃう俺って超らしくない』
そう、げんなりしたように喚くと
彼は一瞬で姿を消した。
その代わり。彼が座っていた場所には
一枚の紙切れが置いてあった。
『時幻党・・・次元の魔女・・・?』
静まり返った部屋の中
呟いたのは新たな『可能性』
俺は涙を拭って立ち上がると
複製された神の記述を開いた。
『駿河愁水』その名前には
見覚えがあったから。
イザヤを救う為なら何だってしよう。
奇跡があると言うなら、そこに至るまで。
どんな悲劇も俺が全部を受け止めるべきなんだ。
『・・・イザヤ、待っててね』
神が定めたのは絶望。
無数に広がる残酷な可能性の中で
たった一つ。君と生きられる
その『奇跡』を見つけ出そう。
ずっと君の隣にいられるように。
君が幸せだと、笑っていられるように。
俺が、全て背負って生きていくから。
どうか未来が、明るくあるように。
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By マギー
2017-01-12 11:37:22
#000『極めて後ろ向きな人達の』
AM10:40 買い物中に拉致られた。
『はい、今から新年会を始めます。で、とりあえず今年の抱負とか発表してもらいます。それじゃあ、まずイザヤから』
『いや、ちょっと待て兄貴。話が見えない』
『トウマはお前と「普通」の新年会がしてみたいらしい』
『あのな、弟を拉致って来てる時点で普通じゃねぇんだよ。何処の世界に買い出しの最中後ろから羽交い締めにされた挙げ句、鈍器でぶん殴られて縄でグルグル巻きにされてから招かれる新年会があるんだ?あ?』
『仕方ないだろ。お前、素直に従わないんだから。不可抗力だ』
『お前らはまず一般常識を学ぶところから始めろ』
───────────ドンガラガッシャアン
『今年の目標は!!イザヤと正式に結婚する事です!!』
『・・・ヴィル。また話がややこしく・・・』
『テスタメント君、壁壊さないでね。直すの大変だから』
『よく、此処が判ったな。テスタメント』
『当たり前だ。いつもならとっくに帰って来て手を洗いながら昼食の準備をして「ちっ、この肉今日までかよ。冷凍しときゃ良かった。さっさと使っちまわないとな」ってムっとしつつフライパンに油を敷いてる時間なのに、十五分も帰りが遅いなんて、何か事件に巻き込まれてるに違いないと思ってね!!』
『お前、怖いわ』
『こんなこともあろうかと。常日頃からイザヤに発信機を付けておいて良かった。何処にいようがGPSを辿れば一発さ』
『発信機!?人の知らない間に何してんだ、テメェは!!何処だ、何処に付けやがった!?』
『流石は、テスタメント君。抜かりないね。それでこそだ。ヒサメ、テスタメント君にもお酒を』
『え、いいの?』
『今日は新年会だからね。君は弟の旦那様(仮)だもの。行く行くは俺の義理の弟になる訳だし。家族をもてなすのは当然さ』
『お義兄さん!!』
『分かち合ってんじゃねぇよ!!』
『因みにだが、イザヤ』
『なんだよ』
『事前調査した結果。ヤヨイの今年の抱負は、お前を抱き潰す事だそうだ』
『何を勝手な!!つうか事前調査って何だ!?』
『なので、新年会には呼ばれなかった。良かったな。姫始めに使われなくて』
『俺も別に呼ばれて来た訳じゃねぇだろ!!拉致られて来たんだよ!!拉致られて!!』
『それなら俺も呼ばれてないから大丈夫だよ、イザヤ。俺は君を助けに来ただけだし』
『ほら、もう新年会でも何でもねぇって!!恋人が助けに来てんだぞ!?ただの誘拐事件じゃねぇか!!』
『誘拐なんて人聞きの悪い、俺はただ。イザヤと仲良くご馳走を食べようと思っただけで』
『だったら最初から素直にそう言えよ!!』
『だってイザヤ、俺からの電話無視するじゃない』
『お前、毎日毎日朝から晩まで何件の着信入れてるよ!?先週だけでも220件だぞ!?もはやただの迷惑電話じゃねぇか!!そりゃ拒否るわ!!』
『だって暇だったんだもん。ね?ヒサメ』
『先週は。オフだったからな』
『もっと他にやることねぇのか!?』
『あとはセックスぐらいかなあ?ね?ヒサメ』
『トウマに合わせてたら俺の体力が保たない』
『あー!!もうやだ、何この人達!!普通って何!?』
『イザヤ、これ美味しいよー。ポリポリしてるー』
『テメェは数の子食ってんじゃねぇよ!!』
『イザヤ、煮しめ食べるかい?はい、あーん』
『あーんじゃねぇ!!つうか縄解けよ糞兄貴!!』
『あ、いいなあ。それ。俺もやりたい。イザヤを餌付けしたい』
『いいよ、じゃあ順番ね。はい、イザヤ。テスタメント君が待ってるから、口開けて。あーん』
『・・・・』
『早くしないと終わらないよ?ほら』
『・・・、テメェら』
『──イザヤ。お前、今。縄解いたら本気で暴れるだろ』
『ああ』
『解かないでおく』
『・・・ヒサメ。今年の目標決めたぞ。俺は寒椿を壊滅させる』
『勘弁してくれ』
『えー。壊滅させられちゃうの?それは困るなあ。はい、イザヤ、しいたけ。好きだろ?』
『・・・・・・・・・・・』
『イザヤ、はい、数の子。あーん。何なら口移しで』
『・・・・・・・・・・・・・・』
──────────────ぶちっ
翌日 AM11:30
[昨日未明、市街のビルで起こった謎の爆発についての続報です。このビルでは直前まで持ち主が新年会を───]
『ヴィル。テレビ消しとけ。正月早々、縁起悪い』
『はい・・・』
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By マギー
2016-12-17 22:41:39
#000『じんぐるべるの日』
私は犬太郎。今日は『くりすます』だ。
恋人達は寄り添い、一家は団欒し
けえきとご馳走を囲む。
だから、これも仕方あるまい。
今日は、そーゆー日なのだ。
『離せ!!』
『やだー』
『テメェ朝から盛ってんじゃねぇよ糞野郎!!殺されたいのか!!』
『だって今日はクリスマスだよ?言わば俺の日だよ?』
『お前関係ないだろ!!』
『関係無くないよ、俺、神の遣いだもん』
『遣いなら、お前が神を祝ってやれよ!!』
『えー。うちの神、イエスさんじゃないし』
『じゃあやっぱり関係ねえだろ!!』
『違うよ。そんぐらい、おめでたい日なら「プレゼントは俺」って裸エプロンで迫るぐらいしてくれても罰は当たらないって言ってるの!!』
『俺を何だと思ってんだテメェ!!』
『さあ、さあ、イザヤ、脱いで、このエプロンを着て!!そしてチラリと太腿を見せながら誘惑してみせて!!』
『死ね糞野郎!!』
さっきからずっとこうなのだ。
ご主人に裸エプロンを着せたい下僕と
断固としてそれを断るご主人。
しかし、くりすますには
サンタクロースが来て
プレゼントをくれる、なんて話もある。
そしたら、もしかすると、下僕にも
チャンスはあるかもしれない。
サンタクロースにお願いすればいい。
ご主人に裸エプロンを着せてくれ、と。
実は私も少し気になる。裸エプロン。
裸にエプロンなんかして、何の意味があるのか。
一度見たら、その意味も判るかもしれないから。
『───まったく。往生際が悪いな、イザヤ・シグレ』
『な、なんだよ急に』
『だったら俺にも考えがあるぞ』
『・・・、』
『これ、欲しくないか?』
『これは───』
[尻尾が動くよ! もこもこにゃんこさん80cm(カラー:ぶらっく)]
『イザヤが密かに欲しがってた、もこもこにゃんこさんだ!!俺は君の、ここ数日間の動向と今までの傾向から、これに辿り着いたんだ!!』
『お前!!』
『さあ、君にもこもこにゃんこさんをあげよう。だから男のロマン、裸エプロンを、さあ!!』
『いや、それとこれとは話が違うだろ』
『何でそんなとこだけ正気なんだよ』
『そんなとこだけじゃねぇよ!俺はいつも正気だよ!!お前が頭おかしいんだろ!!』
『あー、もう。めんどくせぇな。だったら強行突破しか無いじゃんか』
『あ!?てめぇ、何・・・ぎゃーっ!!!』
五分後。ご主人は見事に服を脱がされて
ふりふりの白いエプロンを付けさせられていた。
顔を真っ赤にして、もこもこにゃんこさんに
しがみつきながら『死にたい』と
すすり泣くご主人を満悦そうに見つめる下僕は
きっと鬼畜の類なのだろう。
『ああ、やっぱり!!君には白いエプロンがよく似合うよ。イザヤ、素敵だよ、ハアハアハアハアハアハア、あ、やばい。勃ってきた!!』
『ドヘンタイが!!!』
『ねえ、イザヤ、お願いがあるんだけど』
『んだよ!?』
『「駄目、もうすぐ主人が帰って来るの」って言ってみて!!』
『お前、通報すんぞ、マジで』
『お願いします!!』
『「駄目。もうすぐ主人が帰って来るの」ほら、言ったぞ。これでいいのか』
『やだ、棒読み!!この大根役者!!』
『・・・ったく。バカバカしい。なんで大の男が、こんな馬鹿みたいな格好せにゃならんのだ』
『男のロマンだよ、恋人にして欲しい格好の一つさ』
『裸にエプロンの意味が判らない。だったら裸でいいだろ、もう』
『違うんだよ、裸に布切れ一枚がいいんだよ!!それもエプロンと言う真心の象徴を身にまとってるからこそ、裸に対するミスマッチ感が一際イヤらしく見えるのさ!!健気さの中に、卑猥な欲望を孕んでる感じがして!!ご飯にする?それとも私?みたいな!?』
『意味わかんねえ』
ご主人は訝しそうに眉を顰めて
熱弁する下僕を睨みつけていたけど
ふりふりのエプロンをつけたご主人は
確かにお姫様みたいできれいだ。
裸じゃなくてもいいけど。
下僕は変態だから裸に拘るのだろう。
私は、ご主人が何を着ていたって
何も着て無くたって大好きだし
やっぱり下僕が熱弁してる意味は
難しくてよく判らないけど。
『と、言うわけで───』
『あ?』
『いただきます』
『は!?』
まあ。その後は、いつも通り。
くりすますでも、二人は仲良しだ。
下僕は、いつも通り強引で
サンタクロースにお願いしなくても
自分でお願いを叶えてしまうし
ご主人も何だかんだで楽しそうだから
そーゆーものなのだろう。
私は知っているのだ。椅子の下に
ご主人がプレゼントを隠してる事も。
下僕の為に美味しい
『けえき』を予約している事も。
きっとご主人も、顔に出さないだけで
下僕と同じぐらいウキウキしているのだ。
そしてご主人が楽しいなら、私も楽しい。
裸エプロンの良さはイマイチ判らなかったが
私も大人になれば判るようになるのだろうか?
『ヴィル』
『ん?』
『ありがとう・・・猫』
『───、どーいたしまして!』
お外には珍しく、白い雪が降り始めていた。
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