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月夜桜の酒
By 葉月

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2011-11-14 10:42:59
空に浮かぶ真円の月。

それを仰ぎながら酒を注ぐ。

季節外れの赤い桜が、風を受けてざわめき立てる。

花びらが、杯の中に舞い落ちる。

月を見ながら桜を愛でながら呑む酒は悪くない。

喉を通る灼熱感。

眼球に映る幻想的な風景。

肌に触れる風や花びらの舞い。

こんな夜は──

「よう」

隣に座る気配。

振り向けば、酒を徳利ごと呑んでいる奴の横顔。

「──おい」

こくん、と嚥下する音。

「ごち」

空の徳利を返し、奴は笑う。

「旨い酒だったぜ」

言ってごろりと横たわる。

殴りたい衝動に駆られるが、さして意味はないと自重し、杯の酒を呑み干す。

鬼も、月見酒くらいは嗜むのだ。

ただ酒をかっくらうだけでは、あまりにも風情がない。

月を桜を風を人を、愛でながら。

今宵も鬼は酒の酔いに身を任せる──。


END
W63CA
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