ブラック組織MOSA
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By クロポン
08-29 22:00
【P7】
『…お、おい!! なっ、何なんだよ!?』
走り去った瀬能へと叫んだ、その直後。
誠二は視界の端でくねるソレに気付いてしまった。
それと同時、反射的に背筋へ悪寒が走る。
『うひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅ…』
丁度、瀬能が出て行った反対の開けっ放しのドア。
顔半分だけを覗かせた千葉が、いつも通りの真っ白な顔に見た事もない程の満面の笑みを湛え、こちらを覗いていた。
目が合うや否や、舎弟の河津を引き連れ、颯爽と教室へ入って来る。
クラス中の面々が驚愕と恐怖で千葉に道を開けた。
『ハァーイ☆ミ。誠二ボーイ!! 今日は雨だって言うのに今日のアタシの心は今!!! ふぁぁあるぇえむぅうおよーーー(晴れ模様)!!!!』
『天音ぇ、勝負しろ!! この野郎っ!!』
誠二は瀬能の机から降りると、尋常でない速度で歩みよる千葉と対峙した。
『ああん 誠二ボーイ!!』
『天音ぇええっ!!!』
逃げずに踏みとどまる誠二へ千葉は歓喜し、大きく両腕を広げた。
『やっと私を受け入れてくれる気になったのねぇ〜んっ!!!!』
――スカッ
『勝負しやがっ…』
――ゴッ!!!
『あべしっ!!?』
毎度の事の繰り返しに、遂に悟りの域へと達していた誠二だったが、雨のジンクスは破られる事なく本日も犠牲者を出した。
因みに誠二が千葉へ頭突かないのは、以前頭突いた際にボクシングで鍛えられたせいか、はたまた元から化け物なせいか、全くの無効果で逆に誠二側がダメージを受けた為である――。
そんなこんなで誠二は千葉をウルトラスルーすると、本日全てのイライラに愛と熨斗を付けて河津へとお見舞いした。
『……うしっ』←ちょっとすっきりした
これを機とし、河津は誠二による頭突きの犠牲回数過去最多者に祝昇格を果たした。
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By クロポン
08-25 23:30
【P6】
午後のHRが終わり終業のチャイムが鳴る頃、空は曇り空へと一変していた。
ポツポツと小降りの雨が降り出したかと思うと、間もなく土砂降りの雨となる。
『だぁあああ!! くそっ、誠にチュッパチャプスか!!』
教室に誠二の叫びがこだまする。
これではスタジオへ向かう事が出来ない。
しかし、校内でのバンド活動も禁止されている。
『参ったなぁ……』
誠二は溜め息混じりに後方の瀬能の席へと向かう。
すっかり気を落とし机へ腰掛ける誠二を、その様子に溜め息を吐きつつ瀬能が見上げた。
『何つー顔してんだ。いいか? こういう時にこそ、試験勉強とかして時間を潰すんだよ。学校でやっときゃ、家帰ったら、のんびり出来るじゃねぇーか』
思いもよらない瀬能の言葉にボーっとしていた誠二が、ぱちくりと瀬能を見つめた。
『…ってか、お前、真面目過ぎだろ?! 朝もリーマン気取りに新聞読んでたり。そりゃあ、見習う所はいっぱいあるけどよ……何つーか………』
余りの模範回答振りに言葉を返した誠二を、瀬能は強面の眼力で見上げる。
『何つーか、何だ?』
『…ロックじゃねぇーな(ボソッ)』
ガーーーーーーンッ!!!
瀬能の全身に稲妻が走る。
チビガリ勉から抜け出し、ロックな自分をそれなりに満喫していたつもりが、誠二の些細な一言でこれまでのチビガリ勉だった自分がフラッシュバックを起こす。
『ぴ…、ぴ……』
誠二はカタカタと震えて『ぴ…ぴ…』と、うつ伏せ加減な瀬能を見て焦り出す。
『…えっ?? おい? ど、どうしたよ? せ、瀬能? 瀬能くーん? おーい?』
誠二が瀬能の肩へ手を触れようとした直後、急に瀬能が勢いよく立ち上がった。
その顔はグチャグチャの泣き顔で、長身の筈の瀬能の体もどういう訳か途端に小さく縮んで見えたかと思うと――。
『………………………っ!!!!』
――バンッ!!
瀬能はいきなり机へ両腕を付くとそのままマッハで教室を飛び出して行った。
後には呆気に取られ、固まったままの誠二だけがポツンと残された。
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By クロポン
08-25 01:20
【P5】
瀬能は椅子の背凭れへと身を委ねながら、苦々しく話し始めた。
『腱鞘炎を患った時期から替え玉に演奏させてたらしくて、それがバレた今、大騒動だって記事だよ』
瀬能は新聞の記事へと視線を落とす。
『そうなのか? でも、すぐにバレるんじゃないか? 見た目にしろ、技術にしろ。たかが替え玉に世界の演奏なんて出来るのか?』
そんな上手い話があるなんてと、にわかに誠二は信じられなかった。
『それが、替え玉には本当によく似た奴を使っていたらしい。腕の方も文句なしで、今までその正体へ誰も気付かなかった…』
誠二も夏花も言葉を無くす。
暫し間を置き、誠二が独り言のように呟いた。
『腕の方も同等って事か…。逆に言えば、そんな奴が嵐山麗の影で才能を埋もれさせてたなんてな……』
沈黙の後、瀬能は誠二へ視線を向ける。
『まぁ。一度、問題を起こしちまうと栄光も転落の人生になっちまうってことだな』
新聞の容赦ない批判の見出しを三人は複雑な面持ちで眺めた。
『…そうだな。頂点までの積み重ねは大変だが、崩れるのはいとも簡単だっつう事か。皮肉だな――』
騒々しい朝の教室へ、一時限目の始まりを知らせるチャイムが鳴り響く。
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