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「疲れたときには適度な糖分摂取。(似山)」

甘い物はそれほど好きじゃないけど。
誰かに甘える事は、実は好きだった。

でも、そんな事は現実には滅多に出来なくて。

身も心も疲れた時には、一口甘いものを食べて、一人で癒していた。

甘えさせてくれる人なんて、自分の周りには誰も居ない。
信頼する人も、気心の知れた仲間も。
本当の自分を曝け出すには、今の場所は少し憚れる。

心の何処かで、自分は所詮一人だから、と。
諦めていたのかもしれない。



無償の甘えを受け入れてくれる他人が、欲しかった。

自分の背負っているものが複雑過ぎて、疲れてしまう。
毎日、耐えて忍んで。
そんな事がずっと続いて、一人じゃ辛くなってしまう時もある。

そんな時、ほんの一時でも、自分を包んでくれる人に身を任せたかった。

楽に、なりたかった。

そんな考え自体、自分自身に甘えている事になるのだけど。

それを許してくれる他人が、本当に現れるなんて思っていなかった。

寄りかかった身体を支えてくれる人。
着物越しに伝わるぬくもり。
心地良い静寂。

深呼吸を一つ。
漏らした吐息が、密着した二人の身体の隙間に消える。

肩に手が掛けられた。包み込み掌の逞しさに安堵感が増す。

「どうしたんだい?、今日はやけに甘えん坊だねェ」
「今日は、甘えたいんです」

ただこうして身を預ける事。
断片的に話す、自分の背負っている業を話す事。

震えるほどの恐怖も、胸が裂けるくらいの悲しみも、理不尽な怒りも。

吐き出して曝け出して、堪らず零れた涙。
それを全部受け止めて欲しい。

それが自分なりの甘え方。

「坊や」
「はい」
「辛かったんだねェ」
「…はい」
「そんな時は、誰かに甘えたくもなるさね」
「誰かじゃ…なくて、アナタに甘えたかったんです」
「そりゃァ男冥利に尽きるねェ」
穏やかに、嬉しそうに笑う。

優しさに、もっと甘えたくなる。
心と、今度は身体を。

「あの、旦那さん…」
「何だい?」
「もっと甘えても、良いですか?」
「イイよぉ。でも、その前に」
「え?、わっ!?」
突然視界が動いた。
背中に畳みの感触、仰向けで見上げた先には、包帯に覆われた優しい微笑み。
「俺も、坊やに甘えても良いかい?」
「あっ、え…」
「甘えさせて、くれるかい?」

自分が告げる前に、意図を汲み取ってくれる。
望んでいたものを、望まれているように与えられる。

逞しく優しい手が、自分の顔を撫でる。
指先が、顔を確かめるようになぞってゆく。

見えない代わりに、感じたいと。
存在を、確かめたいと。
そう言って、初めて身体を求められ、受け入れた時に知った。

甘美な、満たされる喜び。

「お…俺、甘やかすの、下手ですよ?」
「おや?、俺に甘えたいってぇ言っていたのは、坊やの方だよ?」

甘い心。甘い身体。

曖昧で甘い関係。








似山は遠慮なく甘く出来るのは何故なんだろう。
妄想の産物だから、本編と関係ないからか。一種のパラレルかコレ。


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