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「取り巻く人々(徐遼)」
魏の国の昼下がり。

訓練場の一角、武将が二人。
談笑しているのか、戦の時には見せない穏やかな表情をしている。

特徴的な装具を纏った張遼、白装束に長い獲物を担いだ徐晃。

共に他勢力から降った身、本人達が意図せずうちに、周りから自然と薦められた組み合わせだった。
複雑な事情からか、持って生まれた無表情からか敬遠されがちな張遼に、強い武人と手合わせできる事を至高の修行と接する徐晃。更に他者に対して分け隔てない実直な性格に、張遼が馴染むのに時間はかからなかった。

平時であれば、一緒に居る姿をよく見かける仲になっていた。

今日も、互いの掌を見せ合い指先で指す仕草から、使う獲物の持ち方で議論を交わしているようだった。

そんな二人の姿を、少し離れた城壁の物見台から眺める君主が居る。

「うむ、良い傾向だ」
「お前が此処に居るのは、悪い傾向だがな」
「心配いらん、まだ誰も気付いておらんからな」
「気付かれる前に執務室に戻ってくれ…」
厳格ながら気まぐれな性質でもある曹操が、執務室から抜け出すと想定していた夏候惇は、当たりをつけた場所で早速その姿を発見した。

曹操の視線の先を見つけ、夏候惇も並び立つ二人の姿を見る。
その顔に浮かぶ笑顔も、はっきり見えた。

武人としての精進を怠らない二人、意気投合したように話す話題は、大概にして戦の兵法か武具類の扱いなどと血生臭い話題だろうと、夏候惇はため息を零した。

「まぁ、悪い傾向ではないな」
「だろう、わしの見立てに間違いは無い」
「単に面白がってるだけだろうが」
「面白くならなければ、口も手も出す甲斐が無いであろう」
「口はともかく、手は出すな」
「最近、口寂しくてのぉ」
「そっちの口も出すな!、孟徳…あの二人の仲を取り持ちたいのか?、ぶち壊したいのか?、どっちだ」
「どちらにしても、暇つぶしには丁度良い二人よ」
「孟徳…当分執務室から出るな、一歩も出るな、頼むから引き篭もって誰にも会わんでくれ」
「酷いのぉ、わしを監禁してナニをする気だ?、夏候惇よ」
「ホントもう戻れ、寧ろ現実に戻ってきてくれ!」
まるで君主に対する扱いではないが、夏候惇は見物を止めようとしない曹操の襟首を掴むと、そのままずんずんと歩き始める。
それでも、悪い顔はしない曹操だった。


「張遼殿は生命線が長いでござるな!」
「ほう、徐晃殿は手相が見て取れるのですかな?」
徐晃は張遼の手を取ると、掌のしわを指先でなぞり、一本のしわに歓喜の声を上げた。
「聞きかじった程度でござるが…。祈祷や呪いといった類は、良い事を信ずれば良い。手相も見る者によっては良い解釈しかされぬゆえ、拙者は己の運命線の太さに自信を持っているのでござる!」
そう言って自身の掌をかざし一本の目立つしわを指差した。
其処には確かにはっきりと、歪みない線が掌を横切る。
その人となりを表すように、真っ直ぐな太い線。

手は第二の顔をも言う。

顔と同じ様に、常に世界に晒され、沢山のものに触れ時には傷付き汚れる。

徐晃の見せられた掌と顔を見比べ、張遼はふっと笑った。

「成る程、あながち気休め程度の呪いでもないらしい」
「何の事でござるか?」
「貴公が好ましい御仁であると、思い改めたまでのこと」

張遼はそう言って徐晃の手をとり、重ね合わせる。
更に深い、その意図を悟らせること無く、その笑顔を挑発する類に変える。

「私の方が、手が大きいようですな」
「ぬっ!此れは惜しい」

血生臭いどころか、生暖かい会話だった事に、その場にいた誰もが気付かない。
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