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あゆみ
 手を伸ばしても届かない。
 触れたくても触れれない。
 距離は近すぎて遠すぎる。

 あぁ、まるで甘い生き地獄のよう。

 その少女は朝が来ると同時に目を覚ますちょっと変わった幽霊。旧・魔法図書館に住み着いているメイド服姿の幽霊。毎日この広すぎる図書館を掃除したり友人達にお茶を淹れたりしてる姿があまりに自然すぎて噂にすらならないが、友人達は騒がしいのが苦手だから丁度良いかもしれない。こうして、ここで静かに本を読む彼女達の側に居て、時々頼まれてお茶を淹れたりするこの時間が、この幽霊には幸せな時間だった。

 死んでからこんな幸せを手にするなんて、なんとも複雑な気分ではあるが、死んでるからこそこの場所での幸せがあるのかもしれないとも思う。この場所は既に『死んで』いた。語弊も失礼もあるかもしれないが、今の幽霊の語彙力ではこの例えが一番しっくり来るものだった。『旧』という冠を頂き、役目を終えた図書館。訪れる物も僅かで、『世間』から隔離された空間。誰が生きていて誰が幽霊なのかさえもう解らない。意味すら持たないこの独立した、ある一種の『別世界』だからこそ、この幽霊がこの場所に存在していられる理由なのかもしれない。本来なら、もうとっくに消えている存在なのだ。

 自分の分身の体の中で生きる理由、目的を失い、ただ暴れまわるだけの『悪霊』だった自分を迎え入れてくれたこの場所。生きる理由をくれた仲間のいるこの場所が、私にとっては死後の世界であり、唯一の楽園なのだと、そう解釈することにした。私がこの場所で分身と逸れたのは、あるいは偶然ではなかったのかもしれない。『運命』だなんて仰々しい言葉を今更使う気はしないが、恐らく『人が死んでどこかへ行く。その行き先が私にはこの場所だったのだ』と。



 ……珍しく物思いに耽ってしまい、掃除の手が止まってしまっていた。この仕事は自分に生きる理由をくれた主に命じられた事ではなかったが、自分を受け入れてくれたこの場所へのお礼として、今まで続けてきた。その間はどうしてもお茶を入れる人物が不在になってしまうため、あまり時間を掛けてしまうと膨れてしまう。『そんなことしなくても良いのに』と言いながらもそれを禁止しないのは彼女なりの気遣いなのだろうか。いずれにせよ、あまり待たせてしまうのは申し訳ない。急いで残りの掃除を終わらせ、主の元へと駆け出した。



***



Result

歩の身体から離れたが消滅を免れ、現在は旧・魔法図書館のメイドとしてニナさん達に仕えているみたいです。

MVP:かりん(ニナ・アルフレッド・加覧)



***



・『どうせならこの霊体も上手く独自ストーリーに発展させてあげられないだろうか』とCapture1終了時あたりにほんのり考えていたら本当になっちゃいました。生前のあゆむの性格より少し黒くなってしまったのは悪霊期間があったからなのかな、と。でも根っこは変わらず素直で良い子です。
・幽霊だったとは言え全く成長してないわけではなかったようでイメージ的には12歳位の女の子の姿になってそうです。戦っているうちに経験点を増やしてレベルアップしたんですね?(ぇ)
・歩に取り憑いてた時代は正直印象が薄くて可哀想だったのですが独自ストーリーに入ってからしっかり幸せにしていただいたみたいで一安心です。なんだろう、娘の幸せを願う父親の気分?まぁ作者なんてみんなそんなもんだよね?(コラ)

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