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DEPARTURE
『夜が明けて、朝になった』

 思ったよりこの日は早く来た。来てしまったと言うべきか。次の仕事へ向かう日が、この地と、この地で出来た友達との別れの日が。
 昔聞いた歌の歌詞の和訳が少しアレンジされて頭に浮かんだ。が、これは友を送り出す歌だ。心境は合ってるが自分は歌ってもらう立場なんだよな、などと考えながらぼやけた頭を軽く振る。
 
 自分宛に手渡しで届いた封筒の中身をもう一度確認する。電車と飛行機のチケット、そして乗り換えの手順、最適な時刻などが書かれた紙。それと、今回の報酬が入ってた。

『……失敗、したはずなのに』

 自分は悪魔を殺せなかった。この仕事に疑問を持ってしまった。結局、その悪魔は無力化したものの、まだ生きているし、それは自分の手柄ではない。複雑な気分だった。
 逆に考えると、これは『必ずしも殺す必要がなるわけではないのではないか』とも取れる。この街での判断、行動が間違いでないと判断されたのであれば、許された行動だというのであれば、これからの選択肢が大きく広がるのではないか。
 そのことが少し嬉しくて頬が緩む。なんだか新しい発見をしてしまったような気がして、一人でこっそり誇った。


 そんなことをしながらふと時計を見ると既に出発予定の時間を大幅に過ぎていた。まだ駅の位置も把握していないというのに。大慌てで今まで過ごしてきた廃墟を飛び出した。

 暫く走ってから思い出したように振り返り廃墟に頭を下げた。

『今までお世話になりました』

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あきゅろす。
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