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グランドエンディング
 クリスマスのイルミネーションが街を飾り、つい最近までの出来事を全て押し流してしまったような気がする。異端狩りも、人を襲うアンドロイドも、街を滅ぼそうとする悪魔も、それを追う悪魔狩りも、この街に溶け込み、同化してしまったような気がする。そんな街なのだ。この街は
 その街の人波を眺めながら鈴音はそんなことをぼんやりと考えていた。

『不思議な街だ。本当に』

 負け惜しみのような、言い訳のような、それでもどこか嬉しそうにそう言い残して本部へと歩き出した。さぁ、これからの話をしよう。最後の作戦会議だ。



***



 雪。

 仕事で世界を駆け回る悪魔狩りには珍しいものではなかったが、何故か妙に嬉しくなってしまう。前に雪国の人間に聞いた。例え後で不便なことになると知っていても初雪が降ると嬉しくなってしまうと。魔性があるのかも知れないな、と思う。ルゥアにとっては戦闘も同じような魔性を持つものだ。体の内側から感情が溢れてくる感覚、興奮や緊張、他にも言い表せないような感情が混じったもの。それがどうしようもなく好きであるように教育されている、いわば本能なのだ。つまり雪も戦闘も本能的に好きということになるのだろうか、少し面白いかもしれない。
 最近、その本能的に好きなものが一つ増えた。一緒に居るとそれだけでどうにも楽しくなれる人達、言うなら、友達。そういう人間が初めて出来た。出来るなら、これからも一緒に居たい人達が出来た。次の仕事に向かうのが嫌なのは初めてだった。

『次……ろんどん……』

 吐いたため息は舞う雪を踊らせ、空気に溶けた。



***



 自分の内側から何かが問いかける。

『お前は、見つけられたか』

 今ははっきりと答えられるよ。



 見つけた。



 あの騒動が終結してからもう一週間以上。既に『去年』の話になってしまったのだが未だに現実感が沸かないままいつも通りの冬休みを過ごしていた。いや、そうでもないか。全然いつも通りじゃないし、あの出来事も実際の出来事なんだって証明できるものが一つあった。
 時々、というか最近はかなりの頻度で語りかけてくる自分の中の『悪魔』といういつも通りではない存在。あの出来事を証明する唯一の要素。最初は戸惑い、厄介に思っていた唯音も今ではこの悪魔が突然喋り出したりすることにすっかり慣れ、しっかり共存してしまっていた。
 それ以外は以前と変わらない、元通りの生活。恋人が居て、友達が居て、皆で笑い合える日々が戻ってきたのだ。手段や工程はどうあれ、悲しい時期を乗り越えいくつも苦しみもがきながらも、また取り戻したのだ。どれだけ苦しいものなのか、もう唯音は知っている。どれだけ悲しいものなのか、唯音はもう知っている。そしてそれだけ素晴らしいのかも、どれだけ大事なものなのかも知っている。この出来事を経て学んだものや知ったものは、もう忘れないよ。そして……

『次は、それを伝えないとな。』

 アンタの話し方、回りくどくて長くて難しくて解りにくいんだっつーの。



***


 いくつも重なった輪が複雑に、時に単純に絡み合って、いつしか一つになって奏でられた物語。得たもの失ったもの、変わったもの変わらないもの、そんないくつものものを残して今ここに一つの終結します。

 私達には、いろんなものが残りました。いろんなものが消えました。それはきっとこれからも続くのでしょうが、今はどうなってるでしょう。この終結を向かえ、私達はどんなものを手元に残せたでしょう。その手を開いて見てみてください。あなたには何が残ったでしょう。

 次の物語に行く前に少し眺めて休憩するのも良いと思いますよ。さぁ、そこに座って、一緒に見て見ましょう。

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あきゅろす。
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