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笹希純一の小説
闇の蝶「平成に見参!」 前編
いつの世の中も 晴らせぬ恨みは尽きぬもの あなたの恨み 晴らします…。

都内、雑居ビルの一室。札を数える中年の男。

「自分は楽をして金が儲かる仕事程、良い商売は無いなぁ…」

゙ピンポーン゙

「ん?誰だ、こんな時間に…」

男が、数えていた札を無造作に金庫に押し込んだ。
「…誰だ…」

ドアを開けると見知らぬ女が立っていた。

「何だ?お前は?」

「夜分にすみません。実は、大学の占いサークルの実践中でして、是非協力をお願いします」

にっこり笑う女。

「女子大生か。可愛いなぁ…。どうするんだ?」

「このトランプから一枚選んで下さい。」

女が、5枚のトランプを前に出した。

「選べばいいんだな」

男がトランプを選ぶと、ジョーカーだった。カードには、死神のイラストが書いてある。

「ジョーカー?」

「あなたが選んだカードは、ジョーカー…。カードのイラストは死神…。あの世まで送らせて頂きます…」
゙シュッ!゙

女の持つカードが空を切り、男の首を切り裂いた。
昼下がりのオフィス街。ランチボックス片手に並木通りを行き交うOL達。

「ふぁ〜」

間抜けなアクビをするOL。芝野有希21歳。ポニーテールテールのやんちゃOLである。

「あーあ、今のアクビを見てると、彼氏いない歴21年は納得出来るわ」

隣で歩いている長い黒髪に、シルバーピンクのメガネをかけたOL、松下秀美23歳が言った。

「交際の最長が半年の秀美先輩には言われたく無いね!」

「何言ってるの、みんな、私が振ってるのよ」

「振られた彼氏は幸いだよね」

「どう言う意味よ!」

二人がベンチに腰を下ろした。

「そのままの意味ですよ」
「可愛く無いやつ」

「またケンカしてるの?」
ランチボックスを持ったOLが有希の隣に座った。

「あっ、友子先輩」

何の飾り気も無い、真面目そうなOL、杉村友子24歳。三人の中ではリーダー的存在である。

「このアンポンタン娘が、人の事を馬鹿にするから…!」

「図星だから、わぁわぁ言ってるんでしょ。このお局様が!」

「あーあ、それが先輩に向かって言う言葉!?」

「年上だから、仕方無しに呼んでるだけだしい〜」

「はいはい。そこまで!」
いつも二人の仲裁に入るのは友子である。

「早くお昼食べないと、休憩時間終わっちゃうわよ」
「はぁい…。パクっ」

しぶしぶ卵焼きをほお張る有希。

「…次のニュースです。昨夜 都内雑居ビルで、同ビル内に事務所を持つ金融業、佐武浩一さん(56)が何者かに殺害されました。また、佐武さんの同僚で向原勇治さんと長原剛彦さんの行方も分からなくなっています…」

近くのランチ販売カーのラジオのニュースにそれとなく耳を傾ける三人…。

「…悪人ども、今頃三途川を渡ってるよ、きっと…」
有希が言うのを聞いた秀美が。

「三人共悪さが過ぎたから、途川を渡り損ねて地獄行きね…」

と言った。

「…人のお命頂くからは、いずれ私も地獄道…か…」
友子が呟いた。

この、若いのに古くさい言葉の言い回しをするOL三人組。実は、ご先祖様が江戸の町で裏稼業をしていたんです。裏稼業…。人の晴らせぬ恨みを代わって晴らす闇の仕事。
事実を知った三人だったが、いくらご先祖様の遺言で「裏稼業」を受け継いでくれと言われても、人殺しは人殺し。もちろん受け継ぐ気はあまり無かった。三人にとって、不条理な出来事が無ければ…。そう…。不条理な出来事が無ければ…。

半年前、木枯らしが吹き始めた頃、友子の田舎の蔵で偶然見つけた巻物。その巻物には、先祖がその昔、江戸の町で「裏稼業」をしていたと記してあった。

「いつの世のも、不条理な事はあるもの。後の世でも、人の晴らせぬ恨みを晴らしていって貰いたい…」

そう締めくくられた遺言だったが…。

「無理だよ。そんなの」

運命の巡り合わせで、偶然知り合った先祖が裏稼業をしていた三人のOL達。話を友子から聞いて即答したのは秀美だった。

「そう?人の晴らせぬ恨みを晴らす?面白そうじゃない!」

若さ故に世間をあまり知らず、血気盛んな有希。

「…あんた、ばっかじゃないの!?人殺しよ!面白いとか、そう言う問題じゃないでしょ!」

現実を考えている秀美の答えの方が、当然と言えるが…。

「…ご先祖様の遺言とは言え、裏稼業はねぇ…」

さすがの友子も、ご先祖様の遺言には二の足を踏んでいた。

そう…あの事件が起こるまでは…。

「…ハックシュン!うう、寒い…」

「らしくない、可愛いクシャミするわねぇ」

そう言った秀美の横で有希が鼻を垂らしていた。

「…にゃっくしょん!」

「にゃっくしょん!て、あんたは猫か!」

突っ込みを入れた秀美の足元に一匹の三毛猫がすり寄って来ていた。

「何だ、あんただったの?」

「当たり前でしょ!」

有希が三毛猫を抱き上げた。

「こんな寒い中、どうしたの?迷子になったの?」

「首輪付けてるから、飼い猫よねぇ」

「…温かい」

さっきまでの寒さが嘘の様に感じられた。

「…みーこ!みーこ!」

聞こえて来た声に反応する猫。

「あら?飼い主かな?」

秀美が声のした方を見ると、一人の老婆がうつ向き加減で歩いて来た。

「あの、おばあちゃん!」
猫を抱いていた有希が、老婆に声をかけた。

「はい?…おや、みーこ!」

老婆が嬉しそうに二人に駆け寄って来た。

「ありがとう。これみーこ!どこえ行ってたの。心配したじゃないの」

「はい」

有希がみーこを老婆に手渡した。

「ほんとにありがとう」

深々と頭を下げる老婆。
「いえいえ。暖かい思いをさせて貰ったし」

「にゃん!」

有希に頭を撫でられたみーこが一声鳴いた。

「五分程歩いた所に家があるから、寄って行って下さいよ。ダメですかな?」

「いえ…」

「…喜んで!」

有希に続いて秀美がにっこり笑って答えた。

年寄りの足で五分の距離は、若い秀美達にとっては、近く感じられた。

「さぁ、どうぞ。狭い所ですが…」

老婆の手からフワリと飛び降りたみーこが、一番に家の中へ入って行った。

「おやおや。これ、みーこ」

叱りながらも、老婆の声は笑っていた。

今と台所しか無い、小じんまりとした平屋家屋の中は、昭和初期にタイムスリップしたような、アンティークな家だった。どこか懐かしい匂いと雰囲気が漂っていた。

「さぁ、どうぞ…。年寄りの一人暮らしで何も無いんだけどね…」

そう言った老婆が、こたつの上に、お茶と塩羊羮を並べた。

「…美味しそう!いただきまぁす!」

「こら!有希!」

はしたなく羊羮に飛びつく有希に、何時ものような秀美の声が飛ぶ。

「いいのよ。若い子は元気が一番」

「ほら。おばあちゃんも、言ってるじゃない」

「すいません。出来が悪くて」

「あんたの娘か?私は!」 二人のやり取りを、目を細めながら見ている老婆。 老婆の名前は、秋山ウメと言った。一人娘を結婚で送り出し、退職した夫と二人でこの家に越して来たウメ。ゆったりとした余生を過ごそうとしていた矢先、夫が事故で亡くなった。その事故の相手が悪かった。暴力団の組長が乗った車で、同乗していた組長婦人が半身不随になってしまった。今後の事を考えた上で、弾き出された慰謝料は3000万。夫の退職金と保険金を合わせて何とか2500万は返せたが、残り500万は遺族年金で細々と生活を送っているウメが切り詰めて返していた。

「あんた達みたいな孫が居てるんだけど、みんな遠くてねぇ…。今は、このみーこだけが、かけがえの無い身内なんですよ」

「じゃあ、私達を本当の孫と思っていいよ!」

ウメの話を聞いていた有希が即座に言った。

「こら有希!おばあちゃんに迷惑だよ!」

「いやいや。私は大歓迎ですよ。お二人さえ良ければ、何時でも寄って下さいな」

ウメの表情が少し明るくなった。

「やったぁ!私達、田舎にしかおばあちゃんがいないから、嬉しいよ。それに、また美味しいお菓子、楽しみにしてます!」

「はいはい。分かりましたよ」

「やっぱり、そこかぁ…。図々しい」

秀美が苦笑いをした。

「もちろん、おばあちゃんやみーこに会うのも楽しみだよ!」

「分かってますよ」

ウメがにっこり笑った。

後編に続く…

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あきゅろす。
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