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笹希純一の小説
声優白書・1
「…今こそ、我等が世界を征服する時である!」
閑静な住宅街のマンションの一室から聞こえる、アニメ染みた言葉。
「ベルーナ王国に栄光あれ!」
声のする一室。その部屋は、一人の女子高生の部屋だった。
パソコンで打たれた台本は、本格的な台本に仕上がっていた。その台本を片手に、テレビの前に座っている女子高生。藤堂菜々、18歳。もうすぐ高校卒業を迎える少女である。
テレビの画面に、エンディングテロップが流れる。「…ふぅ。終わった…」
台本を閉じた菜々顔は満足げな顔をしていた。
「はぁ、現実に戻されるなぁ…」
そう言った菜々の目に映っていたのは、机の上に置いてある、進路決定の為の懇談会のプリントだった。「…進路かぁ…」
菜々が、部屋の壁に貼ってある、一人の男の子のポスターを見た。
声優界の若手ナンバーワン中司祐一郎(なかつかさゆういちろう)のポスターで、声優になる事が夢でもある菜々にとっては、いろんな意味での憧れの人なんです。
台本をじっと見つめる菜々。
しばらく、菜々の部屋に沈黙が続く…。本棚には愛読書の漫画や小説、アニメや声優関係の本がきちんと整理されて並んでいた。
立ち上がった菜々が机の引き出しから大きな封筒を出してきた。
"T S G 東京声優学院" 封筒にはそう書いてあった。「…夢を夢で終わらせたくない…」
そう呟いた菜々は、封筒と進路決定懇談会のプリントを手に、リビングに向かった。
リビングのソファーには父の光一が座っていた。その正面の対面式のキッチンでは、母の美咲が洗い物をしていた。
「ママ」
「ん?」
洗い物を終えた美咲が、3人分の紅茶を運んで来た。「これ…」
「進路の懇談会?」
菜々がテーブルの上に懇談会のプリントを出した。「もう、何処の大学か決めたのか?」
光一が紅茶を飲んだ。
「…えっ?う、うん…」
「そう。それなら大丈夫ね。で、聖条大学?東渡大学?」
菜々がそっと、"T S G 東京声優学院" の封筒をテーブルの上に出した。
「?」
光一と美咲が顔を見合わせた。
「…何も言わずに、行かせて!」
「T S G 東京声優学院?」
「菜々、どう言う事?」
「お前、声優になるのか?」 光一が封筒を取り上げ、言った。
「うん」
「菜々、何馬鹿な事言ってるの!アニメや漫画に興味を持つのは許して来たけど、それを進路の対象に入れるなんて!」
美咲も真っ向から反対した。
「自分を試したいの!昔からの夢を叶えたいの!」
気が付くと、菜々の目から、大粒の涙が溢れ出ていた。
「とにかく、もう少し考えてから進路を決めなさい」 「そうよ、菜々…」
美咲の言葉が言い終わるか終わらないうちに、菜々がソファーから立ち上がった。
「私、決めたから!」
封筒を持った菜々が部屋に戻った。
ベッドに倒れ込んだ菜々の肩が小刻みに震える。
「祐一郎様…」

次の日の朝、早くに食卓に着き、トーストとコーヒーを自分で用意した菜々が朝食を済ませて玄関出て、靴を履いた。
「…菜々…。おはよう。もう、行くの?」
寝室から出て来た美咲が不思議そうに菜々を見た。「行ってきます」
きびすを返した菜々が玄関を出て行った。

学校に登校した菜々だったが、授業も上の空と言った感じである。
「…菜々…!菜々ってば!」「…えっ!?」
菜々に声をかけて来たのは、同じクラスの西川綾だった。綾は、少し茶色のお下げで目が大きく、丸い眼鏡をかけている。今言う、萌え系の女の子。
「えっ!?じゃないわよ。何朝からボーッとしてるのよ!」
「うん…」
「何?恋の悩み?…んな訳ないか。菜々は、祐一郎様一筋だもんね」
「綾は進路…。あっ そうか。公館社の新人漫画家大賞で優勝したんだったっけ」 「うん。4月から連載きまったんだ」
「だよねぇ…」
「菜々は?声優になるんでしょ?」
「そうなんだけどねぇ…。両親が大反対で…」
「やっぱり…。反対されるよねぇ。漫画家、アニメーター、声優は」
菜々が大きく溜め息をついた。
「家出する?それとも、声優のコンテストか何かで優勝するとか?」
「綾とは違うよ…」
一段と落ち込む菜々。
「…菜々…。本気でやる気ある?」
「うん…。それに、祐一郎様とも共演したい…」
菜々が携帯の待ち受けを見た。もちろん、憧れの声優、中司祐一郎の待ち受けである。
菜々は、夢を追い続ける事が出来るのか?
今 菜々のサクセスストーリーが始まる!

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あきゅろす。
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