・ 問題は、鈴だ。 高校は男子校。 愛らしい鈴にとっては、まさに狼の群れに放たれた羊、だろう。今まで以上に飢えた狼が可愛い鈴を襲ってくるかもしれない。 私が守らなくては…。何も知らない鈴は、私が守らなくては、いけない。 幼少、浚われたことから、私は鈴を守れるよう、己を鍛えた。 中学でも散々、鈴を狙う愚か者がいたが、皆返り討ちにしていた。 鈴同様、私も男嫌いだ。というか、私の場合は、更に人嫌い、もつくのだが…。 人に触れる事や、スキンシップは全くと言って出来ないが、人を殴り飛ばすことは、出来た。 私は強い。だから、鈴を守らなくてはいけない。 いつか、罪がなくなるまで。 私の罪が、許されるまでは。 といっても、私が鈴を守るのも毎回王が現れる前までだ。 王が現れれば、王が自然と守ってくれるから だから、王に再び出会うまでは…それまで、私は鈴を守らなくてはいけない。 しかし。 もし、王に鈴を引き渡したとして。 役目を終えた私は、どうなるのだろうか…。 「兄ちゃん?」 ぼぉっとしていた私に、鈴が声をかける。 「どしたの?ぼぉっとして…、」 「なんでも、ない…」 「そぉ?」 ちょっとくりくりとした大きな目が、私を映す。まるで子犬のような曇りない瞳。 鈴といると、いつの時代も、心が洗われるような、傍にいるだけで汚らしい自分が浄化される気になってしまう。 「ああ、ちょっと緊張しているのかもな…、高校って場所に…」 「ふふ…兄ちゃんでも緊張するんだね〜」 ふふ、と笑う鈴。確かに、私は、普段無表情だし、滅多に表情を変えないが…。 「大丈夫だよ、僕も、いるし」 「鈴、」 「もし、兄ちゃんになにかするような人間がいたら、僕がめっためたにしてやるからねっ!」 拳を作り、意気込む鈴。 あの時も、そうだった。私が、裏切ってしまった時の、鈴の魂も、私を慕ってくれた。 『兄ちゃん、兄ちゃんになにかあったら、俺王様にだって楯突くからね』 ぎゅ、と、あの時の事が頭を過ぎり、胸が痛む。私はそれをかき消すように数度頭を横に振り、鈴の手を握った。 「行こうか」 既に制服も着替えたし、必要なものを鞄に入れた。 忘れ物はない。 鈴も鞄を持ちながら、なんだか歯痒い顔をしている。 「うん、っとに、高校にもなって手つなぎなんて…、」 「鈴が迷子になるから、だ…」 「も〜、」 不満を口にしながらも、鈴は私の手を解かない。 高校にもなって手つなぎは…と思われるかもしれないけど、私にとっては大切なことだ。 鈴から片時も目を離さないようにするためには。 王に、王に鈴を渡すその日までは…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |