・ 「そうだな…、」 「あ、みてみて、この制服!」 真新しい制服に、鈴は嬉しそうにくるくるとはしゃいだ。 少し大きめの制服は、鈴が、まだまだ背が伸びるから、とわざと身長よりも大きめの製図にしてある。 もう私も身長は伸びていないのだから鈴も伸びない筈なのだが…鈴はまだあきらめていないらしい。 鈴と通う事になった高校は、県内でも有名な進学校であり、男子校だった。 寮が完備されていた其処に入学することは、この春からアメリカに行ってしまう母の望みでもあった。 母の名前は、天音薫(あまねかおる) 女で一つで、私たち二人の双子を育て上げたシングルマザーだ。 私たちの父は、浮気性の駄目な夫で母は早々に父とは離婚し、仕事一筋になっていた。 母は勝気で、男相手でも物事をハキハキと語るキャリアウーマンだった。 営業という職業についた母だが、システム関係にも強く、よく部署を転々としている。 母でなければできない仕事も多いらしい。 だから、私たちは転勤が多かった。 この度、母は一代プロジェクトに向けて、アメリカへ発つ。 今受け持っているのは、世界でも指折り数えるほどの大金持ち・小早川グループの子息である、小早川晴臣との商談。 この小早川晴臣という人物は、それはそれは有名な財界にも名をとどろかせている人間なのだが、母は、異様に対抗心を持っているらしくこのプロジェクトも並々ならぬ思いを込めているらしかった。 母は、反発しているが…多分、小早川晴臣が好きなんだろう。 何度も酔っぱらってくたくたになっていた母を送ってもらったことがある…。 なかなかいい男だ。 『天音…、』 『う〜ん…もうのめあい…』 『まったく…、』 しどけなく首元に手を回し、まるで猫のように甘える母を小早川晴臣は、まるで大切なものを持っているかのように横抱きしていて…その視線は、まるで恋する男の様だった。 母はいい女だから、まぁ、うなずける。 鈴と似て明るく、感情的で、涙もろい。 こんな、妙に達観し、感情の起伏もない私に母として鈴となんら変わらなく接してくれた。 いつの日だったか、私は、私の前世について母に話したことがある。 私が、前世で鈴とは同じ思い人を好きになったこと そして、その思い人を愛するあまり、鈴を殺してしまったこと。 そして、また兄弟として生まれ変わってしまったこと。 私は、また鈴を裏切ってしまうんじゃないか、と自分が怖い事。 母は、私を迫害するでも、可笑しいと思うでもなく、ただ抱きしめてくれた。 『辛かったね』って。 普通なら、前世だなんて真剣に語る子供気持ち悪いだろう。 けれど、母は、私の言葉にちゃんと耳を傾けてくれた。 母が、アメリカへ行く今。 鈴を守れるのは私だけだ。私は母の恩返しも含めて、鈴を守ることを誓っていた。 母も母で、意外と抜けているところがあるし、鈴同様、異様に男にモテる。 今までは、それとなく、母の事も私が牽制していたのだが…、今、母には小早川晴臣がいる。 母自身は、恋なんてもうこりごり、小早川晴臣に恋?なに言ってんの、里桜と笑い飛ばしていたが…二人が結ばれるのは、多分時間の問題だろう。 あの小早川晴臣が母を野放しにする筈がない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |