1.めぐる巡る。 1. 巡る、巡る。 朝起きて、度が入った眼鏡をつける。 眠気眼を擦りながら、二段ベッドの梯子から降り、階下で未だにぐっすりと眠る双子の弟を見る。 これが、私のいつもの朝の日常だった。 天音里桜として生まれ変わった私。 その私の双子の弟鈴は、とても子供の様な性格をしており、正直、寝汚い。今もお気に入りの大きなテディベアを抱きしめながら、すやすやと眠っていた。 あのテディベアは…、初恋の男の子から貰ったらしい。眠るときはいつも一緒なんだそうだ。 私は鈴を起こさないように忍び足で、リビングへと足を向けた。 少しガラン、と物が少なくなった室内。大きなソファーがあったリビングも、今はテーブルひとつしかない。 この家も、しばらく空き家になる。 私たちと鈴は、この春、高校の寮に入る事に決まっていた。 今日でこの家とは、最後なのだ。 私は感傷めいた思いで朝食のパンをトーストに入れた。 鈴と、私。 物心をついたのは…確か、三歳の時だったと思う。 兄ちゃん、と無邪気に手を握った弟に、ああ、また遭ってしまった…と嬉しく、それから悲しくなった。 愛しい弟と、今世の世でも巡り会えたというのに。 『また…出会ってしまった…』 私は、ポロポロと涙を零す。 輪廻転生。 前世の記憶を、また今生でも引き継いでしまった…。罪は、まだ消されない…。 前世の記憶がある限り、私は許されず、また、王に惹かれ王と恋する弟を見るのだ。 それが、私に課せられた運命なのだから。 その事に、わずか三歳であった私は泣いた。 『にいちゃん、どうしたの…?』 なんにも知らない、優しい鈴は私の顔を覗き見る。 『なんでも…なんでも、ないんだ…』 『どうしてないているの?痛いの?』 突然泣き出した私にどうしていいかわからなかったんだろう。 弟…鈴はおろおろと、その場を右往左往する。 『ごめん…ちがう…、違うんだ…なぁ、鈴』 ごしごし、と服の裾で涙を拭いて、鈴を見つめる。 『ん?』 『わたしは、お前をまもるよ…なにがあっても、まもる、から…』 ぎゅっと鈴を抱きしめる。 ふわり、と、いつの時代も変わらない弟の香りが鼻をくすぐる。 いつの時代も、変わらない、その清潔感溢れる、石鹸のような香り。 ほっと安らげるような、そんな香りに鼻を啜る。 『兄ちゃんを、嫌わないで、欲しい』 『きらう?きらわないよ』 鈴はふわりと笑って、 『ずっと一緒だもん』という。 その笑顔を見て…私は少し救われた気がした。 この子の魂をまた守っていこうと、そう決意したのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |