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前世

「好きだ」
愛しき人が、目尻を下げて幸せそうに笑う。


「愛している」

私ではなく、私じゃない人間に。
何度も何度も、甘く囁く。

好きだ、好きだ。
愛している。
お前だけを、愛している。
 

 その優しげな甘い言葉を聞くたびに、私の心はささくれマヒしていった。

その恋心を欲しいと泣き、手に入れられないジレンマに狂いそうになった。

暗い闇の底に落ちていく。
深い思いは、やがて身を焦がし滅ぼしていく。

手を伸ばしても伸ばしても、手に入れられないものに、子供のように癇癪をあげ、泣きわめいている。

愛している、私の方が、愛している。
狂おしいほど、貴方だけを…。
貴方だけを愛している。

貴方だけを、見ていた。
貴方だけをお慕いしていた。
私にはあなただけだ。
どうして、私のモノにならない。

大きくなりすぎた恋心に、私はいつももてあまし、嫉妬めいた瞳で、貴方の周りのものすべてに負の視線を送っていた。

愛しき人は、私を見てくれない。
その事実に、嫉妬し、黒くなっていく。
聖母様≠ニ言われ、人に慕われていたはずの私だったのに…、恋に芽生えてからは、まるで堕天使にでもなったかのように、私の心はその人しか見えなかった。

私は、あの方に恋をして、悪魔に心をとられてしまったのかもしれない。


 私の愛しき人は私の狂おしい恋慕など知りもせず、また別の人間を好きになっていた。

私じゃない、別の人間を好きになる、愛しき人。
私じゃない人に愛を語る、愛しき人。
だけど、私は、愛しき人の思い人も愛していた。


ずっと、愛していた。
本当に大切だった。
私を慕い、笑顔を向けてくれた。
唯一の肉親。
そして、私の半身。


愛していた
愛して、いたのに…



「兄ちゃん、ごめんね…」

ごほっと、咳とともに、口元から、赤い血を流す。

うっすらと消えゆく、命のともしび。

目が、白く濁っていく。
私の半身。私の、大事な、弟…。

愛しく可愛い、おとうと。

何年もたった今だって、たやすく脳裏に描くことができる。悲惨な出来事。


「死ぬな…、死なないでくれ…」

必死に、弟の手を掴みながら、涙を零し懇願する、私の好きな人。
そして…弟…リィンの恋人。

…クラウドさま。

私と弟が使えている、その人。
この国の王である、その人は、弟の恋人だった。

厳格で、色恋など興味もなかった王の、狂うほどに恋焦がれた人。
それが、私の弟だった。

 今にも消えそうな弟の命。
王は、断腸めいた思いで、神に祈る。

私は…、ただ自分がした大罪に、後悔するしかなかった。

私が、弟を殺したのだ。
叶わない想いに、どうしようもなくて。

王に素直に甘えられる弟が憎らしくて・・・自分を見てくれない王が悔しくて…私は…。
私は…。


「…さま、愛してる…よ…。ずっと…、ずっと、」

ふと、弟が微笑みを浮かべた。
ポタリ、と、床に涙が跳ねた。
自分の最後とわかり絞り出すようにそう言った言葉は…胸が痛むほど、切なかった。

「リィン…!」
「だい…すき…」

小さくそう零すと…そのまま、静かに息を引き取った。


王は、弟の亡骸をぎゅっと抱きしめて、涙を零した。

私を睨みつけながら…。

「お前の…せいなんだな…、」

憎悪の眼差しで睨みつける、王。

私の、せい…。
私の、せいだった。
弟が、弟が命を絶ったのは…、私が弟に王は他に女がいると嘘をついたから…。
身ごもり赤子がいる、と嘘をついたから…。

ショックを受けて…、私の嘘を真に受けて…命を絶った。

全ては、
私の、せい…。私のせいだった。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…。

王は、憎しみを込めた瞳で、私を睨んだ。
そして、

「お前など…お前のような小悪など…死ねばよかったのに。お前が…」

王は、そう吐き捨てた。

「クラウド…さま…、」
私が、死ねば…よかった。
クロード様にとって、私など…、どうでもいい、存在。

ほろりと涙をこぼし、身をひるがえす。

「お前が…リィンを…、」

王の言葉をそれ以上聞いていたくなくて。

私は走ってその場から、逃げた。

王の憎悪の視線が、嫌で、嫌で。

逃げて、逃げて、逃げて。

にげついた先。

私は友人の魔法使いに、一つ、魔法をかけて貰い、命を絶った。


『いいのか…?こんな魔法かけて…』
『いいのです…私は…私は、罪びとなのです…だから…』

私の罪は、ずっと、消えない…。

ずっと、ずっと…。

ごめんなさい。王。
私は…私の全てで、貴方に償うから…。

何度でも
何度でも生まれ変わり償うから

だから、だから、どうか…。

どうか、幸せに。
誰よりも、幸せに。

それが、貴方に恋をし、罪を犯した罪人である私の望みです。
たった、一つの、望みなのです。

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あきゅろす。
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