・ 「怖い…か…?」 「…少し…。でも、頑張る…、」 「そうか…、」 鈴の震える手を握る。すると、鈴は少し安心したように笑みを浮かべる。 「はやくんに、笑われないように…僕も頑張るんだ…」 自分に言い聞かせるように、鈴は呟いた。 はやくん、とは、鈴にテディーベアを送った初恋の君だ。 多分、王の生まれ変わりだったと記憶している。 鈴はテディーベアをその初恋の君に見立てている節がある。 なにか辛いときや悲しいときがあれば、そのぬいぐるみを抱きしめて、一晩中離さない時もある。 鈴は意を決したように、私と手をつないでいない手を伸ばし、ルームキーを壁にある機械に翳す。ガチャ、と錠が落ちる音が大きく鳴った。 「あい…」 た、と、鈴が口にするまえに、その扉が自動的に開いていく。 「…、だれ…だ…?」 中から出てきたのは…、髪をつんつんにワックスで立たせた、背の高い男。 顔は…爽やか俳優で有名な…なんとかって俳優によく似ている。 戦隊ものでレッドをやっていた、あの俳優だ。 男は、耳には複数ピアスをつけている。い、痛そう…。 顔は随分爽やかで男前なのに…こんな耳ピアスなんて…不良か。 不良なのか…。 咄嗟に鈴の前に出て、鈴を庇う。 「俺の部屋でなにしてる…?」 「おまえの…?高橋剛…か?」 「人の名前を聞くときは自分から…て、いわねぇか?おぼっちゃん、」 にや、と、挑発めいて笑う男。 なんだ…こいつ…。 同じ高校生なのに、妙に凄味のある… 「私は…」 「あ、僕天音鈴。んでこっちは兄ちゃんの里桜っていうんだ…」 私が紹介する前に、鈴が話してくれた。 「天音…鈴…?」 「う…うん…、高橋君…だよね?僕、同室者…なんだけど…、」 「同室者…ねぇ…、」 男…高橋は、ちらりと鈴に視線をやり…私に視線をよこす。 「兄貴ってことは双子か…?声は似ているが…姿は全く似てないな…、」 「そ…そかな…、」 「そっちのは、暗そうだ…」 そっち、と、私を指さしながら言う。 言いなれた言葉だから、私は気にしないが…鈴はあからさまにむっとし、顔を歪めた。 「…弟は、可愛いな…。だけど、アホそうだ…」 「あ、あほ?…僕あほじゃない…、」 「見た目を言ったまでだ。…天音鈴とか言ったな…、」 高橋は、ふと、一息ついて…、 「同室者なのは…いい。だが、俺にかかわるなよ…。俺も関わらないからよ…」 そういって、部屋の中へと姿を消した。 現れたのも突然なら、消えるのもあっさりだ。 「鈴、あいつ、あまり性格よくなさそうだぞ…、」 思ったままのことを口にする。 初対面で、あんなことをいう人間は早々いないだろう。 「うん…、」 「どうする?今から私の部屋に無理やり止まるか?」 「それは…。いいよ…、一泊くらい、大丈夫だよ…きっと、」 「きっと…って…。なにかあったら、急所蹴ってでも逃げてこいよ」 「うん…、わかった…」 鈴に防犯ベルを持たせて、散々忠告する。 最初は大人しく聞いていた鈴も段々と飽きたのか、最後の方には、「兄ちゃんも早くいきなって」ってわずらわしそうに私を追っ払った。 少し…寂しい。 仕方なしに、私も自分の部屋に向かう。 私の部屋は鈴の部屋から若干距離があるようだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |