・ もし。 もし、鈴の同室が、度変態の狼だったら…。 『へへ…可愛い顔してんじゃねェか…鈴ちゃん?』 鈴は…。 『いや…あ…あ、にいちゃ…、』 「だ、駄目だ…」 「兄ちゃん…、」 「鈴を違う部屋になんかできない…」 「兄ちゃん…でも…、無理みたい、だよ…?」 鈴はちろりと、受付の人に視線を移す。受付の人は、困ったように、おろおろとしていた。 新人なのか…この人 「兄ちゃん…、もしかしたら、その同室者今日いないかもしれないし…、それに、もしいたとしても、仲良くなれるかも…じゃん。僕、いいよ…、兄ちゃんと同室じゃなくても。そりゃ、あまりに変な人なら嫌だけど…さ、」 「仲良く…?」 「うん。僕も、もう高校生に入るし、さ。そろそろその…治していきたいし。アレ…」 鈴は…だから、ね、と、私に笑いかける。 アレ、とは男嫌いの事だ。鈴は幼い頃の誘拐事件のあれがまだ治っていない。 治したい…と、努力しているらしく、鈴は私と違って他者と歩み寄ろうとよくコミュニュケーションを取っている。 私だって、治せるものならば、治してあげたい。しかし…、 「とりあえず、部屋へ行こう…。駄目だったらまたくればいい…」 「うん…、」 鈴の同室者が…とんでもないやつなら、どうにか脅してしまえばいい。 私はそんなことを考えながら、カウンターにおかれたルームキーを取る。 ルームキーは手に収まるほどのカードだ。 黒いカードで、右下の方に部屋番号が書かれている。 「こちらをお部屋の隅の機械に翳していただければ、部屋には入れますので…」 「ありがとうございます、」 「前日までに送られたお荷物は、既にお部屋においてありますので…。あ、階段はそちら左手にありますので」 「わかりました…」 鈴と受付の人に礼を言って、鈴の部屋まで歩いていく。 鈴の部屋は階段を出てすぐの、角部屋だった。 「301、天音鈴…と…。うわ、プレートまでついてる!マンションみたいだな…、」 「そうだな…、」 「高橋剛ってあるけど…、この人が同室の人かな…、」 「おそらく…、」 高橋剛…か。特にこれといって、珍しい名前でもない。 問題は…、どういう人間か、だ。 私は頭の隅にしっかり、高橋剛の名前を刻みつつ、鈴をみやる。 鈴は、少し顔を固くし緊張しているようだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |