・ 数時間かけて、惣流学園の寮へと向かう。 朝に家を出たはずなのに、もう夕方、だ。 電車と新幹線とバスを乗り継いだため、凄く時間がかかった。 惣流学園行のバスに揺られながら、私はぼんやりと夕日が映る窓を見ていた。 このバスを降りれば、ようやく惣流学園の寮へと入れる。 「ね、兄ちゃん」 小声で、声をかける鈴。 「なんだ…?」 「あの人たちも、新入生かな…?」 つ…、と視線をよこにずらす鈴。 鈴の視線の先には、良家の息子らしいきちんと身だしなみを整え、眼鏡をかけた少年が本を読んでいた。他にも、やたら耳にピアスを開けた少年に…鈴同様可愛らしい生徒が乗っている。 ピアスやら茶髪は校則違反じゃないのか…。 「新入生…じゃないか…。このバス、惣流学園直通だし」 「直通バスが出ているなんてすごいよね…、」 「小早川グループだからな…、」 「小早川グループ…か。晴臣のおっちゃんって結構すごいね…」 「おっちゃんなんて言ったら、また怒られるぞ」 あの人、あれでいて、独身だし若いつもりでいるんだから…。 雑誌とかでは、貴公子、だの、イケメン実業家だの言われているけど…実際は若い若い。 なんたって、あの母さんに恋愛中なんだからな。 暇さえあれば、うちに来ていたし。 「ね、でも僕たちがいく学校っておっちゃんが理事長、って訳じゃないんだよね…?」 「ん?ああ、昔理事長だったらしいけど、今は違う人間に譲ったらしいよ。 元々惣流学園は、小早川グループのものだから…」 「…?小早川グループの?なら、おっちゃんのじゃないの?」 「小早川晴臣は、一応自分で事業立ちあげて成功している実力者だよ。 元々あった家の事業は、別の人間に渡してるんだって」 小早川晴臣は、やり手だ。 元々元手があったにしろ、己で事業を立ち上げてからは、上手い事立ち回っているらしい。 そのせいで、家とは疎遠になっているとか、いないとか…。 「おっちゃんってすごい人なのな…。それを上手い事仕留めた母さんって凄いんだな〜。シンデレラじゃん…、」 「仕留めたって…。まだ、告白もしてないらしいし、付き合ってもないらしいよ。小早川晴臣も、私が母さんの事好きなのかと聞いたら、真っ赤になって否定していたし…」 「なんだよ〜、ヘッタレだなぁ…、僕にあんな鬼のように家庭教師しといて…、」 クスリ、と笑う鈴。 今では笑い話にはなるが…、当初、小早川晴臣が家庭教師をやった時、鈴の偏差値があがらない事に怒り、鈴が大事にしていたテディベアを捨てる、と脅したことがあった。 鈴はもちろん、怒って反対したし、これには母も反対してくれて、事なきを得たのだが…。 「そういえば、鈴、あのテディーベアのぬいぐるみ…寮にも送ったんだよな…、」 あのテディーベアがないと寝れないという鈴は、今日出がけに、コンビニへより、あのテディーベアを寮へ送る手続きをしていた。本当はリュックに入れて直接持っていきたかったらしいが…荷物になるから、となんとか説得し、郵送する形になった。 「当たり前じゃん!でも今日中には届かないんだって…、」 「そうか…、寝れるのか?」 「寝れない…。だから今日は兄ちゃんぎゅってして寝ていい?」 「私を…?」 「駄目…?」 「いや…別にいいけど…」 「やった…!」 可愛らしく微笑む鈴。それに、ついつい私も笑みを浮かべる。 鈴と私が男性恐怖症なことは、小早川晴臣も知っている。 この学園は、基本2人一部屋らしい。 この学園に入るとき、問題は同室者だったのだが、小早川晴臣がそこは手を回してくれたようだ。 『まぁ、私にかかれば…』と、どこか自慢げに話していた。 男子校というのは、少し心細く怖いが、鈴と同室なら幾分ましだ。 「今日はさ…、二人で朝まで話し合おうよ」 「なんの話?」 「初恋について…?なんて…、」 「女の子じゃないんだから…、」 そんな他愛ない話をしながら、私たちは惣流学園に着くまでの間、暇をつぶしていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |