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愛しい人
☆☆

「…菖蒲はさ、本当にすげぇよな。
自分の事を後回しにしながら周りを優先して守る。俺達の事を何度も助けてくれた。
自分の事は自分一人で片付けてしまう。

でもさ…

…俺はずっとそれが気に入らなかった。
仲良くしてくれるくせに必ず壁を一枚用意してる。

迷惑をかけたくない、なんて言うなよ。
言ったはずだ…俺はお前がヤクザで組長になる立場の人間でどんだけ敵がいても離れる気はねぇって。

お、れは…そんなに頼りないのかよ…。」

何とか泣かないように目に力を入れて我慢した。

菖蒲も何か決意したように眼光を鋭く強くした。

あぁ。相変わらず格好いい奴だ。
喧嘩の時に見るこの眼が俺は好きだった。

俺が見つめていると、菖蒲はゆっくりとくちを開いた。

「…矢田は自殺する一週間前、俺と敵対していた組織に拉致されてレイプされたんだよ。」

「は?」

余りにも信じがたい事を告げられて俺は間抜けな声をだしてしまった。

だって…矢田は春日の事だ。

菖蒲は辛そうな表情で俯いた。

「矢田は純には言わないでほしいと言っていた。これ以上巻き込む人間を増やさない為にと、純を傷つけたくないと頼まれたんだ。」

俺は目が熱くなるのを感じる。

あぁ。嫌だ…泣きたくない。

「俺もこれ以上お前達を巻き込みたくなかった。
本当に闇の世界に浸かる覚悟を決めて離れた。…その一週間後矢田が自殺したことを知った。

そして矢田の葬式を最後にお前の前から完全に姿を消した。




…すまなかった。」

我慢出来なかった。
俺は思いっきり力を込めて菖蒲の上に馬乗りになり頬を殴り付けた。

我慢出来なかった涙が落ちるのが解る。
菖蒲が驚いた顔をしているが、それもぼやけて見える。

「…ばっかやろぉ!
頭良いくせに本当に馬鹿だなてめぇは!

春日も馬鹿だ!

巻き込みたくない、傷つけたくないと言ったお前ら二人が一番俺を傷つけてんだよ!!!

俺は子供か!?

ふざけんなよ!!

どれだけ俺は頼りねぇんだよ。」

本格的に泣き始めてしまいそうだった俺は立ち上がってソファーのすみに丸まって座った。

ギシッと音がしたと思えば温かく包まれる。

菖蒲がギュウギュウと抱き締めてきたのだった。






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あきゅろす。
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