夢のような話 ☆☆☆ その後は何故か宴会で疲れきって寝不足の朱里はご馳走を食べるだけ食べて雅也と家へ帰ったのだった。 「ただいま。」 一階が店になっている二人の家について朱里は久しぶりにホッと息をつけた。 「お帰り。」 雅也の穏やかな笑顔と、柔らかい声に何故か込み上げてくるものがある。 朱里の瞳からポロっと零れた涙を雅也は優しく拭った。 そうすると我慢してきたものがポロポロと止まらなくなった。 「…っ。お、れ。最後ま、でっ心配っしてくれ、た奴、置いてっ来た。」 朱里の頭にはずっと車が走り出したときに見えた真下の顔が離れなかった。 泣きながらも、慈愛に満ちた瞳で最後まで自分を見送ってくれた真下。 朱里が消えた事で光輝達が躍起になって探そうとするのは目に見えていた。 そこで真っ先に親衛隊に目を向けるはずなのだ。 あの優しい少年達が心配で堪らなかった。 群れるのが嫌いな自分を優先して、遠目で自分を見つめ見返りを求めることなく守ってくれた者達。 雅也は朱里の事を優しく抱き締めた。 「…朱里は自分の目を信じなさい。 自分が大切だと思える者達を信じなさい。 距離を取るんじゃなく、少しだけでも歩み寄りなさい。 そうすれば守れるんだよ。 だから、今は大丈夫だと言って送り出してくれた彼らを信じてあげなさい。 そして朱里が落ち着いたときに連絡をとってあげればいい。 朱里が連絡先を知らなくても龍一が知ってるだろ。彼奴は俺と一緒で朱里には甘いからな。」 最後の雅也の言葉に朱里は笑った。 その朱里の笑顔に雅也も安心して朱里からそっと離れた。 「さぁ。閉じ込められてた間もろくに寝れなかっただろ? 今日はユックリ休みなさい。」 雅也の言葉に朱里は頷いて二階の住居に上がっていった。 「不器用な子だね。」 上がっていく朱里の背中を見ながら優しい瞳で呟いた雅也の言葉は暗い店内に響くのだった。 [*前へ] [戻る] |