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雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編_第七話 もう一度約束を(その5)
「それに・・・今の私も・・・きっといなくなる」

 人に認められる為に、対人関係をより有利にするために、槙人に好きになってもらうために。そして、自己愛のために。
 今ここにいる綾香自身が、嘘でできている。
 それをはぎ取ってしまったら、「自分」が消える。
 姿はどうでも良い。ただ、多かれ少なかれ、ものの考え方などの人格に関して、理想に近づきたいと思った事はあった筈だ。ならば、それさえも消えてしまう事になる。それに、槙人が変わる可能性もあるのだ。今の槙人の、ある程度の範囲が綾華によって美化されているとしたら。

「お兄ちゃんが好きなのは、今の私でしょ?もし、願いを全て消去するなら、姫崎綾華は残っても、私はいなくなるんだよ?それでも、私を愛せるの?」

 槙人自身も、変わってしまうかもしれないのに。

「どっちを愛せる?嘘の私と本当の私・・・」

 睨むように、綾華は槙人を見つめる。
 だが槙人は、全く悩むことなく答えた。

「言っただろう。お前を、この世で一番愛してるって」

 そして、さらに続けて言う。

「俺は、お前が本当の綾華だって、信じてる」

 嘘なんかじゃない。力が影響していても、綾華は絶対変わらない。槙人はそう思っていた。
 だが、綾華は激昂する。

「・・・信じてるだけでどうにかなる訳じゃないでしょう!!」
「けど、信じなきゃ前には踏み出せない」
「その先は奈落かもしれないのに!」
「だからって、友情も愛情も、いちいち疑ってたら、何もかも失っちまう」

 信じなくても、何もできないのだ。

「絶対また、やり直せるって・・・」

 優しく、しかし信念に満ちた目で、槙人は言った。

「ずっと努力してきたんだろ?その努力は本物だよ。努力で作った自分は、嘘なんかじゃない」
「それが努力で得たものかどうか分からないじゃない!」
「努力で得たもんだよ」

 あっさりと、槙人は答える。

「人の人格ってのはさ、環境や本人の努力やなんかで決まるもんだろ?願いを叶える力、つまり成功ってのは、努力を助長させるか、或いはさらなる努力を湧かせるものに過ぎない。成功は物理的なものだから人格には関係ない。自信は主観的だが自己評価だ。自分を分析するのに人格は影響しない。確かに思い込みが激しいと、自信家になるが、お前は確率が百パーセントじゃないと自信なんか出ないだろ?」
「う、うん・・・」

 槙人が来るときには、自信がなかったと言っていたのだから。

「そして意欲は、意志だ。願いじゃない。ほら、少なくとも人格に関しては、姫崎綾華に願いを叶える力は備わってないんだよ」

 綾華は、目を見開いて茫然としていた。考えてもみなかった事らしい。」


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