雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編 第二話 雪景色(その7)
綾華の部屋を出ると、槙人は自室に戻った。そのまま、何となく窓に寄る。
雪は、飽きもせず降り続いていた。
「兄妹・・・だよな・・・」
無数に降りてくる雪をぼんやりと眺めながら、槙人はそっと呟いた。
まっちーこと町田の言葉が思い起こされる。
憧れ。本当にそうだろうか。
綾華の態度は、本当にそれだけなのだろうか。
それとも、それは本当で、そう思うのは、槙人自身の期待なのだろうか。
綾華は可愛い。策略家なところはあるが、女の子としてみるなら、かなり理想に近いだろう。そういう意味では、彼女にしたい女の子は、と訊かれれば、理想に近いだろう。
まず真っ先に思い浮かぶ。
そんな女の子に、自分を好きになってほしいと思うのは当然ではないだろうか。
だからかもしれない。こんなにも気になるのは。
綾華が自分をどう思っているのか。
「・・・アホか、俺は」
いや、アホだな、と槙人は訂正した。
綾華は妹だ。それを強調する。
七年間会わずにいたので、綾華は年頃になってしまった。しかも、相当に可愛く成長して。 血のつながりがない事を、否が応にでも知らしめられる。
その状況をまた受け入れられないから、そう考えてしまうのだろう。
いずれ落ち着くところに落ち着く筈だ。頭を悩ますことなどないのだ。
槙人は深く息を吐いた。
そっ、それは本当に。
しかしそれは、本当に。
槙人は窓を開けると深呼吸した。冷たい空気で肺を満たす。それだけで頭が冷える気がした。
思い切り息を吐くと、視界が白くなった。そして、息が空気の中へ溶け込んでゆく。その後も視界は白かった。
雪は降り続く。初雪といえど遠慮はない。冬が近づくにつれて降雪量が増える普通の自然現象とは違う。初夏、突如大量に降った後、積雪量はほとんど変わらぬまま、残暑が過ぎてから忽然と止む。雪が降ったことなど、嘘だったかのように。
それは、本当に。
その時は、本当に−−。
槙人はもう一度深呼吸すると、窓を閉めた。
「えーい、メシだ、メシ!」
これ以上考えないようにしようと、わざと声を出した。
部屋のドアを開け、一階へ降りる。大して空腹ではないが、早めに食べる事
にした。
しかし、それでも。
時間の中に現れる変化に、人は抗う事はできない。
その時は、本当に。
自分は正しかったと、思えるのだろうか。
この迷いを、捨てきる事はできるのだろうか。
綾華の笑顔が思い出される。
それは、本当に---。
単に槙人の思い過ごしなのだろうか。それとも。
そしていつか明らかになるそれは、その時と、同じものなのだろうか。変わ
ってしまっているのだろうか。あるいは、不変という名の変化を起こしたものなのだろうか。
その時二人は、どうなっているのか。
「・・・・」
答えなど分かる筈がなかった。
その日の雪は、一日中降り続いていた。
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