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雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編 第二話(その4)
境内は予想外に混雑していた。

「・・・結構混んでいるもんだな・・・よっと」
「うん、そうだね・・・。あ、お兄ちゃん、焼きそば。焼きそば食べよ」
「この状態でよくメシが食えるなお前は。まあいい。行くか」

人を押し分けかき分け、槙人は屋台で焼きそばを二つ買うと、なるべく人の少ない場所へ移動した。一息ついてから、てのうちの一つを綾華に手渡す。

「ほれ」
「うん。ありがと」

雪が積もっているため座る訳にも行かず、ふたちはその場で立って食べる事にした。
もうもうと湯気の立つ焼きそばに箸を入れる。

「よくまあこんなに人が来るな」

食べながら槙人は、目の前の風景を見やった。雪の中を様々な人が往来する。傘もさせない状況なのが一目で分かる。

「休日だからね。ちょっと遠い所からでも見に来る人はいるんだよ」
「ああ、なるほど」

隣の綾華も顔を上げて、また食べ始めた。ぱっと見、湯気の中に顔を突っ込んでいるようにも見える。
その大量の湯気のせいか、それとも単に寒さのせいか遅めの朝食は妙に温かく感じられた。

「それにしても、祭りの日に丁度雪が降るなんてすごい偶然だよな」

焼きそばを食べ終えた二人は、ごみ箱を探すために再び移動を始めた。その途中、槙人が口を開いて言った。
夏雪は大抵五月半ば頃に突然降り始めるが、その初雪と祭りの日が重なる確率はそれほど高くないのではないだろうか。槙人は首を傾げた。
だが、綾華は、おもしろそうにくすくすと笑っていた。

「そんな訳ないじゃない。逆よ逆」
「逆?」
「うん。お祭りの日に初雪が降ったんじゃなくて、初雪が降った日にお祭りをやっているの。だからお祭りの日は別に今日って決まっている訳じゃないの」

つまり初雪祭りは毎日決められた日に行われているのではなく、その年その年の初雪が降った日に合わせられているのだ。そのため、祭りの日は夏雪次第となり、降ったら即座にその準備をしなくてはならないのだ。

「そっか。皆今日が祭りの日って知ってて来た訳じゃないんだな」
「うん。だからほら、お店もあんまり多くないでしょ?」
「そうだな」

そのおかげで一つの店に大量の客が集中することになり、結果的には相当の収入になるのだろう。

「平日だったら人もお店ももっと少ないんだけどね」
「だろうな」

見つけたごみ箱にパックを放り込むと、二人はまた出店回りをする事にした。初雪祭りには神社方による催しはないらしい。単に雪を見て楽しむだけの物のようだ。
(神社方・・・そういや、如月はどこにいるんだろ?)
色々な屋台を覗く中、ふとクラスメートの顔が思い出された。
二条院如月。金色の左目を持つ不思議な少女。体全体に神秘的な雰囲気を纏う如月は、屶瀬神社に家を持っている。先日槙人が学校の屋上で如月と話してから知った事だった。名前で呼ぶのもその時許可されている。
一応屶瀬神社主催の祭りなのだから、如月も何かしら携わっていることだろう。
(社務所の方かな。ちょっと行ってみようかな。私服の如月って見てみたい)
クールで寡黙な如月だが、クラスでは一番の美女だろう。確認した訳ではないが、学院内でもトップクラスに違いない。艶やかな黒髪に加え、左右で色の違う眼という謎めいた魅力もある。家は相当近いのだが、学校でしか会っていないので、制服以外は見た事がなかった。だから興味が湧く。
(あ、でも神社なんだから巫女さんの格好かもな)
それはそれで良い気がした。巫女装束のクラスメート。人生の中で会う人間としては最も貴重な存在の一つだろう。

「なあ綾華。ちょっと・・・」

別行動をとろうと、槙人は綾華の方を向いた。

「あん?」

だが、綾華の姿はそこにはなかった。辺りを見回すが見つからない。

「どこ行ったんだ、あいつ」

はぐれてしまったらしい。
綾華の携帯電話にかけてみるが全くつながらない。厚着のために気付かないのか。
もしかすると家に忘れているのかもしれない。

「どうするか・・・」

諦めて電話を切ると槙人は立ち止まって考え込んだ。
このまま如月のいる所へ行くかどうか。
綾華も子供ではないのだから、放っておいても平気だろう。地元だし、家もすぐ近くだから迷う事もあるまい。携帯電話さえ持っていれば、綾華の方からかけてくるに違いなかった。
では直行というところで槙人は踏み止まった。
確かに何も心配はいらない。だが綾華のことだ。後で何か色々言われるかもしれなかった。探すのは面倒だが、小言の方がもっと面倒だ。それに相手はあの綾華だ。槙人をわざと一人にして、何か企んでいないとも限らない。
(すっかり人間不信になっちまったな、俺は)
白い溜め息を吐くと、槙人は綾華を探し始めた。
とりあえず、十軒程ある屋台を回ってみよる。拝殿の方も見てみた。しかし綾華は見つからない。すれ違ったかもしれないと思い、もう一度くまなく探す事にした。
綾華の身長は平均的なので、人ごみを見ただけでは分からない。また槙人もそれ程突出している訳ではないので、綾華にしても見つけにくいだろう。

「どこだぁ?」

先に家に帰ってのだろうか。そう思って槙人がもう一度電話をかけようとした時、視界の隅に茶色のツインテールが見えた気がした。

「綾華?」

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