風の強い日・10
「なぁ、カイジ。勝負しようぜ」
銃を構えた赤木さんが、オレに向かって不敵に笑ってみせた。
去年の、祭りの日のことだ。
「勝負、ですか?」
赤木さんは頷き、手中のコルク弾をオレの目の前に翳して見せた。
「弾は五発ずつ。より多くの景品を取った方が勝ち。どうだ?」
赤木さんの顔と、射的の屋台を見比べて考える。
射的は得意だ。博打では到底赤木さんに勝てないけれど、あるいはこれなら、可能性がある気がした。
ニヤリと笑い、返事をする。
「いいですよ。で、なにを賭けますか?」
ひたと銃を構えたまま、赤木さんはぼそりと呟いた。
「告白」
「え?」
ぱん、と音をたてて弾が的に当たり、ちいさなチョコレート菓子が下に落ちる。
「負けた方が、勝った方に愛の告白をする」
赤木さんはオレを横目で見て笑い、また銃を構え直す。
ぱん、と弾が命中する音を聞きながら、オレは顔が熱くなっていくのを感じていた。
どういうことだ? 愛の告白!?
赤木さんはオレの気持ちを知っているのだろうか?
勝った方が負けた方に……って、もし赤木さんが負けたら、オレに告白するってことだよな?
つまり、赤木さんも、オレのことを……?
百発百中で五つの的を落とした赤木さんから銃を受け取り、ひどく混乱してぐちゃぐちゃな頭のまま、とりあえず構える。
赤木さんに「頑張れよ」と肩を叩かれたが、こんな精神状態で集中できるはずもなく、オレは狙いを外しまくって赤木さんに惨敗した。
その帰り、ふたりで歩いたあの土手の道で、オレは決死の告白をした。
赤木さんは始終ニヤニヤしていたが、最後にはやさしい声で「俺も同じ気持ちだよ、カイジ」と言ってくれた。
穏やかな風が、赤木さんの白い髪を微かに揺らしていた。
あの夜から、オレと赤木さんは始まったんだ。
懐かしくて、けれど今はもう、遠い記憶だった。
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