「キスしてくれたら起きる」

 そう、アカギが言ったので、カイジは思い切り顔を顰めた。
「お前な……これから代打ちだっつってたろ? くだらねえこと言ってないで、早く起きろよ」
 自分の方を見もせずに軽くあしらわれて、眠たげに細められた瞳で、アカギはカイジを睨むように見る。
「オレはなカイジさん……今、死にそうなほど眠ぃんだ。でもあんたがその『くだらねえ』ことしてくれたら、起きられる気がする」
「眠気で人は死なねぇだろ……」
 カイジの揚げ足取りを、アカギはあっさりシカトした。

「ああ……このままだと遅刻しちまうな……ま、仕方ねえか……」
 アカギは遅刻魔な上に、大してそれを悪いと思ったことなどないのだが、そんなことはおくびにも出さず、ふてぶてしい態度でそんなことを言う。

 すると、カイジのしかめっ面がようやくアカギの方を見た。
 そのまま、早足でズンズンとベッドへ近づいてきたかと思うと、素早く屈み込み、横向きに寝っころがったままのアカギの唇に、ごく軽く自身のそれを押し当てた。

「……ほら、したぞ。布団から出ろよ」
 淡々とそう言ってベッドから離れていくカイジの後ろ姿を、アカギは呆気にとられたような顔でしばらく眺めていたが、やがて不満そうな顔で首を傾げた。
「……なんか違うんだよな……」
「なにがだよ。言われたとおりにしただろうが」
「なんか、事務処理みたいで味気なかった……あんたなあ、すこしは恥らったりしてみろよ。気に食わねえ、もう一回だ……」
 カイジは面倒くさそうにアカギの方を見たが、ふと妙案を思いついたようにニヤリと笑う。

「そんなにしてほしいなら、お前の方から来てみろよ。え?」
 不敵な笑みを浮かべ、顎を上げて言い放たれた、思惑のわかりやすい挑発に、アカギはむっとした顔をしたが、むくりと布団から起き上がる。
「いい度胸だなカイジさん……いいだろう、乗ってやるよ。その挑発に……」
 片頬を吊り上げ、アカギは勢いよく布団を捲り、ベッドから飛び降りた。




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