延滞 過去拍手お礼 バカ話




「……やべっ!」

 という、ちいさな叫びとともにカイジが跳ね起きると、その拍子に、肘が隣にあるアカギの肩に強く当たった。
「……」
「あ……わりぃ!」
 眉を寄せてうっすらと目を開いたアカギに、おざなりに謝って、カイジはベッドから転げるように出ようとする。
 起き抜けとは思えないほどの素早さで、寝転んだままカイジのスウェットの裾を掴み、アカギは不機嫌そうに問いかけた。
「……どうしたの。ずいぶん早いじゃない」
 普段の起床時間より一時間ほども早い時刻を示している携帯のサブディスプレイをチラチラと見ながら、焦ったようにカイジは答える。

「DVD返しに行かなきゃいけねえんだよっ……!」

 アカギはさらに深く眉を寄せる。
「……DVD? ベッドの下に隠してある、あのエロいやつ?」
「エロ……っ!! ちっ、ちげぇよっ……! ていうか、なんでお前がそれをっ」
「違うの? じゃあどのエロいやつ?」
「エロいやつじゃねぇよ! お笑いのDVDだよ!
 返却期限、昨日までだったの忘れてたっ……!」
「昨日まで……? だったらもう、間に合わねえだろ」
 怪訝な顔をするアカギに、
「今日の開店前に返却ボックスに入れれば、ギリセーフなんだよ!」
 そう説明して、だから離せとカイジは服の裾を掴むアカギの手を外させようとする。
 力を込めることでそれを阻止しつつ、やけに必死な様子のカイジにアカギは問いかける。

「延滞料って、そんなに高いの? 一万くらい?」

 あまりに常識から外れたその発言に、カイジは思わず固まり、アカギの顔を凝視する。
 だが、世間のことに疎いアカギは本気でそう言っているらしく、鋭い目に不思議そうに見返され、なんとなく目を逸らしながらカイジはちいさな声でぼそぼそと言った。
「いや……一泊三百円だけど」
(それでもっ……! 今のオレにとっては、今日を食い繋ぎ明日を無事に迎えるための貴重な金っ……!
 ギャンブルで負け続けて素寒貧の今、オレには無駄にしていい金など、一円たりとてありはしないっ……!!)
 口に出すのはあまりに情けなさ過ぎるので、カイジは心の中だけでそう力説し、改めてベッドから離れようとする。

「もうすこし寝ようぜ、カイジさん……延滞料なら、オレが払ってやるから」

 だが、欠伸混じりのその言葉に、カイジの動きがぴたりと止まった。

 眠そうな半眼で、相変わらず自分の服を掴んでいるアカギを、カイジはじっと見据える。
「お前……今なんて?」
 アカギはわずらわしげにため息をつき、掠れた声でふたたび言う。
「……三百円くらいオレが持ってやるから、寝直そうぜ?」
「……」
 すでに半分寝ているようなアカギの顔を、発言の真偽をはかるようにじっくりと眺めたあと、カイジはそろそろとベッドに戻る。
 すると、すぐさまその体をするりと抱き込み、黒い髪に顔を埋めてアカギは深く息を吐いた。

 そのまま安らかに寝入ろうとするアカギに、カイジは声をかける。
「おい」
「……ん」
「言ったからな。忘れんなよ、延滞料」
「……」
「寝ぼけててなに言ったか覚えてねえっつうのは、通用しねぇからな。期限内に返却しようとしたオレをこうして引き止めたからには、ちゃんとーー」
「……うるっせぇな……」
 目を瞑ったまま、アカギは低く唸る。
 しつこいほど念押ししてくるカイジに、引き止めなければよかったと早くも後悔しながら、アカギはうんざりした風にぼそりと吐き捨てた。

「……やっぱりあんた、返しに行けば? エロDVD」
「……だからエロじゃねぇっつうの!!」






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