hunt fur 初夜 恥ずかしがるカイジの話 甘々


 カイジの部屋の、シングルベッドの上。
 そこで今、素っ裸の攻防が繰り広げられていた。

「う、うわ、ちょっと待てってっ、アカギっ……!」
「なにを今更……待つわけないでしょ」
 カイジの体を押し倒そうとするアカギと、アカギの腕からなんとか逃れようと暴れちぎるカイジ。
 ふたりは所謂、初夜、というものを迎えようとしている。
 しかし、合意の上でベッドに上ったはずなのに、この段になって羞恥心に負けたカイジがごねだしたのだ。

「は、離せっ、離せよっ……!」
 足をばたつかせ、髪をふりみだし、カイジは全身全霊でアカギから逃げようともがく。
 まるで獣のようなその暴れっぷりに、アカギは舌打ちする。
 いかに腕のたつアカギとはいえ、ガタイのそう変わらないカイジの抵抗をいなすのは容易ではない。
 カイジに悪気はないのだろうが、興奮に水をさされたアカギは苛立ちを隠せない。

 お互い一歩も退かないふたりの攻防は、徐々に激しさを増してきた。古いベッドが、ギシギシを通り越してミシミシいい始める。
「な、なぁ、アカギっ聞けよっ!」
「なに」
「やっぱ、こ、今度! また今度にしようっ……
! き、今日は体調が……うわぁっ」
 明らかな嘘を喚きたてるカイジの抵抗が一瞬緩み、その隙に、アカギはその体を強く押し倒した。
 勢いよく倒れた体がベッドの上でぼすんと一跳ねし、黒い髪が放射状に広がる。
「体調が……なんだって? あんなに酒、ガバガバ呑んでたくせに」
「ひいぃ!」
 力に任せてアカギはカイジの足を抱えあげる。まるで赤ん坊のような格好をさせられ、カイジは目を見開いて絶叫した。
「っい! イヤだって、やめろ……っ!」
「……!」
 抱えあげられて浮いた右足で、あろうことかカイジはアカギの顔面を蹴ろうとしてきた。
 咄嗟に足首を掴んでそれを阻止すると、アカギは幽鬼の形相でカイジを見下ろす。
「あんたなぁ……」
 文句のひとつでも言ってやろうと口を開いたアカギは、そこで口をつぐみ、固まった。
「わ、悪い……アカギ……で、でもオレ……」
 消え入りそうな声で謝るカイジは、アカギが今まで見たこともない表情をしていた。
 真っ赤に染まった頬。困りきったように寄せられた眉。
 泣きそうに潤んだ瞳に見つめられ、ぞくぞくっ、と羽毛で心臓を撫で上げられるような感覚がアカギを痺れさせる。
「う、や、やっぱ、ムリだあっ……!」
「あ」
 アカギがぞくぞくしている一瞬の隙に、カイジはアカギの下から脱け出した。
 しかし、素っ裸であるカイジは外に走り出るわけにはいかず、脱兎のごとく部屋の奥へと逃げていく。

 バタバタと遠ざかる足音を聞きながら、アカギはさっきのカイジの表情を思い出していた。
 普段のカイジからは想像もつかない、目に焼き付いて離れないような、情欲をそそる表情。
「あの人にあんな顔、できるとはね」
 予想外の収穫にくつくつと喉を鳴らし、袋小路に逃げ込んだ獲物を追い詰めるため、アカギはゆっくりと立ち上がった。


 カイジは風呂場に逃げ込んでいた。
 磨りガラスごしに、肌色の体がぼやけている。
 アカギは黙って引き戸に手をかけると、渾身の力を込めて引いた。
 戸の向こうではカイジが必死に戸を押さえているらしいが、こういった力比べでアカギがカイジに破れたためしがない。
 無言の攻防ののち、ほどなく抵抗がフッと消え、ガラス戸が勢いよくガラリとあいた。
「うわぁっ……!」
 カイジは慌てて体を隠すようにしゃがみこみ、浴室の隅にちいさく丸まった。
 乱れた息を整えながら、アカギはカイジを見下ろす。
「カイジさん」
 息が上がっているせいで、思ったよりも言い方がやさしくなった。
 その声のやわらかさにぴくりとカイジの体が反応し、真っ赤な顔がおずおずと上げられる。
 さっきと同じ顔で見上げてくるカイジにまたぞくぞくさせられながら、アカギはカイジの側に膝を折った。
「ひ……」
「あんたね……」
 怯えたように顔を背けて縮こまるカイジの体を、もう逃げられないように腕で囲う。
「イヤだって言われると、 ますますしたくなるし、 」
 黒い髪の間からのぞく耳を、甘く噛む。
「ぁ……」
「逃げられると、追い詰めたくなるし、」
 耳の裏を軽く吸い上げ、首筋を舌でなぞる。
「っ、う……」
「隠されると、余計に見たくなる。わかっててやってるだろ、あんた」
 嘲笑うような言い草に、カイジはカッとなってアカギの方に顔を向ける。
「ちっが……違うっ……!」
「はいはい……もういいよ、黙りなよ」
「っ、ん……!」
 抱きすくめて体の自由を奪い、唇を塞いで言葉を奪う。
 あとは、目の前の体を奪い尽くすだけ。
 息を弾ませてカイジの口を吸いながら、息継ぎの合間にアカギは低く笑う。
「抵抗、してもいいぜ。その方が燃えるってわかったし」
「っこの、変態っ!」
「なんとでも」
  やがて、カイジの声から険が抜け落ち、甘い鳴き声に変わっていっても、楽しそうなアカギの笑い声はずっと風呂場に響いていた。





[次へ#]

1/34ページ

[戻る]