無題・1(※18禁) アカカイ 女装プレイ アホエロ 変態注意


 赤木しげるはふつうの男ではない。
 切った張ったの世界を悠々と渡り歩き、幾多の死線を潜り抜けていくのは、マトモな神経の奴では無理だということは、カイジだって重々承知である。
 そういう意味で、アカギはどこかイカれていると言っても決して言いすぎではない。天才には、常人では到底理解できない部分があるのだ。
 しかし、だからといって。
「これは……ねえだろっ!!」
 カイジは叫んだ。だがその叫びは、狭いトイレの壁にむなしく反響するだけだ。

 カイジは唇を噛み、腕に抱えた衣服を広げてみる。
 白い半袖に、三本の白いラインが入った黒い襟。同じく黒のプリーツスカート。手触りの滑らかな臙脂のスカーフ。ハイソックスの色は紺。
 まごうことなきセーラー服である。

 これは10分ほど前、久々にやったきたアカギが、鞄から出してカイジに押し付けたものである。
 そしてアカギは。
 あろうことか、これを。
 着て見せろと言ったのである。

 一瞬、なにを言われたのか理解できず、ぽかんとしたカイジだったが、じわじわと言われたことを把握するに従い、頬をひくひくとひきつらせた。
 あまりにブッ飛んだ要求に何をどう言えばいいかすら思い付かず、結局、どうでもいいような疑問が口をついて出る。
「こんなもん、どこで手に入れたんだよ……」
「こないだ代打ちした組の若頭に……接待とかいって、連れてかれたクラブで借りた」
「クラブって」
「新宿二丁目の」
「それって」
 お前、その若頭にケツを狙われてるんじゃ……と言いかけたカイジの思考を読み取ったかのように、
「腰とか太股とか、やけにべたべた触ってきやがったから、一発殴ってやった」
 アカギはしれっとそう言った。そうなのだ……金があるくせに、必要以上に女遊びをしないアカギは、よくその筋の方に狙われる。その度に、相手が誰であろうが構わず、肝の冷えるような鉄拳制裁を繰り出しているのだ。
 裏社会で、アカギはかなりの有名人になってきたから、そういうことをする輩も減ってはいたのだが……その若頭はアカギのことをよく知らなかったのだろう。
 騙されるのだ皆、こいつの涼しげなツラに。カイジは顔も知らない若頭を若干不憫に思う。
「気味のわりぃ店だったけど、ま、これ借りられたからチャラかな」
 そう言ってにじり寄るアカギに、カイジはビクリとしてあとじさった。しまった、見ず知らずのヤーさんに同情している場合ではない。今まさに、己の身の危険真っ只中ではないか。
「こんなもんっ……着られるわけないだろうがっ……」
「大丈夫、あんたより大柄のオカマから借りたし」
「サイズの心配なんかしてねぇよ!!」
 全身全霊で叫ぶカイジに、アカギは表情を変えずに言う。
「なんだって言うこと聞くからって、あんたいつも言ってるじゃない」
 カイジはうっと言葉に詰まる。
 そう、確かに言っているのだ――主に金を無心するときに、何度も何度も……
 だがしかし。
「あれは……言葉のあやってやつで……」
「言葉のあや」
 アカギがぽつりと繰り返す、その声のトーンの低さにカイジは過剰に反応し、慌ててとり繕うように付け加える。
「ほっ、他のことならなんだってやる! だからっ勘弁してくれっ! 嫌だっ、じょ、女装なんてっ……」
 床に額をこすりつけんばかりの勢いで、必死に懇願するカイジに、アカギは今日初めての笑みを見せる。
「言ってなかったかもしれないけど、オレ、あんたの嫌がる顔、好きなんだ」
 カイジは本気で目眩を覚えた。

 そして。
 カイジの意思など関係ないとばかりに、無理矢理服を脱がそうとするアカギの手から逃れるため、せめて自分で着るからとセーラー服を抱えてトイレの中へと逃げ込んだのである。

 途方に暮れ、カイジは深くため息をついた。背中を嫌な汗が流れる。
 こんなこと、正気の沙汰じゃない。
 どう考えても、頭のネジが飛んでいるとしか思えない。しかしアカギの表情を見る限り、冗談でやっているとは思えなかった……アカギは時々、信じられないような金や暇の使い方をすることがある。金も暇もかかっていないが、これもその酔狂の一環なのかもしれない……カイジには理解できないし、したくもなかったが。

 カイジはぐっと唇を引き結ぶ。
 ともあれ、従わなければ後が酷いことは目に見えている。
 それに……半分は自分の蒔いた種だ。自分で刈り取るしかない。なんでも言うことを聞くなんて、アカギ相手に軽々しく言ったことをカイジは猛烈に後悔した。

 カイジは覚悟を決め、シャツのボタンに手をかける。

 とりあえず服を全て脱ぎ、上着を着る。さっきアカギが言っていた通り、サイズはかなり大きいためすんなり着ることができた。これが女性用なら、小さすぎて着られないと言い訳することもできたのに……
 緩慢な動作で、スナップボタンをぷちぷちと留める。ともすれば止まりそうになる手をなんとか動かして、次にスカートを持ち上げた。
 と、畳まれたスカートの間からぱさりと白いものが落ちた。
 なんだろうと拾い上げ、カイジは気絶するかと思った。
 それは、下着だった。女性が穿くような、白いレースのついた、薄い生地の。



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