拾う神・1 神+アカカイ 赤木が神様なパラレル
その日、伊藤開司は最悪だった。
パチンコと競馬をはしごして、散々負けた帰り、電車のなかでスリにあった。
現金は小銭くらいしか残ってなかったが、財布の中には銀行のカードが入っていた。
残高は大したことなかったが、カイジは全財産を失った。
警察に被害届を出して帰宅すると、アパートの前に黒服が張っていて、追い回された。
なんとかうまく撒いたが、連中はしつこい。今日はもう自宅へ帰るべきではないと、カイジは判断した。
かといってどこかに泊まる金はないし、あてになる友人もいない。
カイジはしぶしぶ野宿を決意した。
その途端、快晴だった空がにわかに曇りだし、ぽつりぽつりと雨が落ち始め、瞬く間に土砂降りになった。
秋の雨は冷たく、体にしみる。ついさっきまで春のような陽気だったのに、いつのまにか北風も吹き出して真冬のように寒い。
薄着をしていたカイジはガタガタ震えながら、突然の雨に慌てて走り出す人々に混じって駆け出そうとした。
するとそれを見計らったかのように、靴ヒモがするりとほどけ、それを思いきり踏んづけたカイジは顔面からつんのめるようにして転んだ。
ちょうど目の前に大きな水溜まりがあり、カイジは勢いよくそこへダイブする形となった。
鼻が折れたかと思うほどの痛みに煩悶しながら顔を上げれば、傘をさした女子高生二人組がカイジの泥だらけの顔を見て「なにあれ」「だっさ」とクスクス笑いながら歩いていった。
度重なる不幸に、カイジは水溜まりのなかに転がったまま暫し呆然とする。
なんなんだ今日は。俺がなにをしたっていうんだ。
買ったばかりの服に、冷たい泥水がじわりじわりとしみこんでいくが、もう起き上がるのも嫌になったカイジは、町行く人の視線も気にせず、ガクリと肩を落としてうなだれた。
どのくらいそうしていただろうか。
一向に弱まる気配のなかった雨が、急にふっと止んだ。
顔を上げれば、目の前に一人の男が立っていて、カイジの上に黒い傘を翳している。
白いスーツに派手な虎柄のシャツ。くわえたタバコの煙の白さに負けない見事な総白髪と、顔に刻まれた深い皺。
初老のその男はカイジと目が合うと、顔の皺をさらに深めて破顔した。
「災難続きだなぁ、兄さん」
まるでカイジの今日一日をずっと見ていたような男の台詞に、カイジは少なからず驚く。
「神に見放されたみてぇだな。運もツキもすっからかんだ」
楽しそうに言う男にカイジはむっとしたが、男がポケットからマルボロのパッケージを取り出し「吸うか?」と言ってきたので、ぶつぶつ言いながらも体を起こして立ち上がった。
ちょうどタバコも切れてしまっていたのだ。
差し出されたパッケージから一本抜き取り、火を点けて深く吸い込むと、ささくれだった気持ちが多少は落ち着いた。
服の袖で顔の泥を拭い、相変わらず笑いながら自分を見ている男に、カイジはぼそぼそ礼を言う。
「ありがとう、ございます……」
すると男は意外そうな顔をして、ニッと笑う。
「見た目に似合わず礼儀正しいんだな」
どういう意味だと憤る気力もないカイジに、男は快活に言った。
「いいぜ、気に入った。俺がお前を拾ってやる」
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