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シリアス



傷ぐらい、そんなもの自分でいくらでも治せた。



「ふう…っ」

剣を鞘に素早く収める。
敵を斬り込んだ際に付着したのであろう、頬に垂れる返り血を乱暴に拭った。
足元に倒れたままの死体を心入れのない、淀んだ目で見下ろす。

(襲いかかってこなければ、殺しゃしないんだがなぁ…)

今では旅を続けながら、この世界に生き残っていく為には必要な手段だと解釈している。
そんなものは所詮、建前だ。
しかしそう自分の都合の良い方向へ言い聞かせておかないと、キリがない。
罪悪感やその他の戦闘に無駄な感情が、いつしか足枷になってしまうから。

「いやぁ〜流石ファブレ家の使用人、と言ったところでしょうか」

両手をポケットに突っ込んだ軍人が話しかけてきた。
確か世界に悪名を轟かせる死霊使いジェイド…。

「…アンタ、それで人を誉めてるつもりかい」
「おや。何か貴方の気に障るようなことでも?」
「いや、気付いていないならそれで良いさ」

自覚が無いなら、それで良い。

「まぁ私も、貴方が気付いていなければ良いと思ったのですが…」
「…ッ、!?」

鞘を掴む上腕を握られる。
あまりにも不自然な相手の行動に警戒心を強めていたが、それは呆気なく失敗に終わった。
思いもよらぬ力負け。
鋭い瞳が、こちらを見据えていた。
それは見たことのない、深い朱…。

「立派な切り傷…ですねぇ」

捻られた手首の先の視界に収まってきたのは一筋の、赤。
凝固しきった血は色を変え、僅かだが皮膚を盛り上げている。
傷の位置的には、腕を左右に捻り返しても見つからない死角の場所に、それはあった。

「…離せよ」
「何もそんな恐い顔をすることはないでしょう?」

長年の勘で分かってしまう、仮面の作り笑いが気に食わなかった。
不審に思ってしまうその分、余計に眉間に縦皺が入る。

「アンタ、相当性格悪いぜ…」
「何ゆえこれが私の性分ですから」

厄介な人物が仲間になったもんだ。
からかっているのか、喧嘩を売りに来たのか、詳しい詳細は分かったもんじゃない。
第一、あの死霊使いを怒らせたらどんな仕返しが返ってくることやら…。

「…つまらないことで喧嘩するのは止めましょう。私達、一応仲間ですし」

やけに一部分のところで強調されたヵ所があった気がしたが、あえてそこには触れなかった。
まだ、お互い信用出来た身ではない。

「先にルーク達のところへ戻っていますよ」
「…なぁ、」

進行方向へ向いたままの身体に呼び掛けた。

「さっき俺を誉めたような口振りだったけどな…嫌がらせだぜ、それ」
「…それは一体どういう意味ですか」

これで会話が成り立っているから驚きだ。
まるで独り言のように互いはお互いの目を見ること、無く。

「アンタは浴びてなかったろ。…返り血」

気付いていたか、最初から?
あえての無視か、返答が無いのは図星のクチか。
つくづくこの食えないオッサンは何をどうしたいのか、先読み出来ない。

「ああ、そういえばそうでしたっけ」

最後には横顔がちらりと顔を見せただけ。
焦る様子もなく、死霊使いの後ろ姿は遠ざかっていく。

「やっぱ性格悪ィ…」

傷に触れると少しの痛みが残る。
ぷくりと皮膚から顔を出す凝固しかけた血が、色と同じにどれ程の時間が経過したのか物語っていた。
前衛と後衛では勝手が違うが、技術の差を見せつけられた不快な気分だ。

「こんな傷ぐらい、いつでも…いくらでも治せるんだぜ。ジェイド」





end.
2010/11/07

また不明な文をっ…!^^;
元ネタは村瀬が飼い猫に腕を引っかかれたけど、自分からは見えない死角のところにそれはあり、痛みが出てくるまで全く気付かなかったところからきています。
結構長い引っかき傷でしたが、今ではすっかりなくなりました…。
だいたい、傷モノネタを書きたくなる時は村瀬が怪我をした時です(笑



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