抑えられない衝動
(やっちまっ、た――…?)
いつも通りの清々しい朝。
自分の寝室であり、一人で寝るには大きすぎるキングサイズのふかふかのベッド。
東の窓からは光が射し、部屋全体に朝日が昇ったことを知らせてくれる。
…なのに何故、今日は目覚めた瞬間、一気に血の気が冷めたのだろう。
知っているいつもの場所の筈がここはどこだ、と居る筈のない誰かに問いたくなった。
(いや、まずは落ち着け。人間冷静が大事だ、とじーさんも言っていただろ)
ふー、と深い深呼吸とため息を繰り返す。
半裸の身体を中途半端に起き上がらせ、周りを見渡してみる。
ひょっとして、ひょっとしなくてもこれは俺にどこぞの陰険眼鏡が仕組んだドッキリではないのか、と。
やりかねないことが、恐ろしい。
影からこっそりこちらの動きを見張っているのでは。
悪趣味なアイツがやりそうなことだ、と無駄に関心を持つ。
そんな皇帝陛下遊びをしていないで公務をこなせ、と言いたかったツッコミはそのまま見事にそっくり返されそうな気がしたので言うことを諦めた。
(しかし、まぁ…)
ポリポリと後頭部を掻き、目の前の非現実な現実を受け入れようとする。
紛れもない現実、なのだ。
よくよく真剣になって起こった事実を思い出すと、覚えている。
しかも結構鮮明に。
(ああ、これは間違いなくヤったな)
確信をする。
隣で静かな寝息を立てているガイラルディアを眺めながら。
シーツに埋もれた金髪は朝の陽射しに反射して、キラキラと光を帯びていた。
しかも相手も自分も全裸な訳だ。
これでシてない、とかそちらの可能性の方が統計的におかしい。
(俺、そんなに溜まってたのか)
使用人であるガイラルディアに手を出したぐらいだ。
ちら、と日焼けをしていない白い肌に目をやると鎖骨部分に集中する。
跡が所々に、散りばめるように残っていた。
今度は目覚めた時とは逆に、全身の血が沸騰したかの衝動が襲う。
(…うわ、俺らしくねぇっ!何で顔、赤くなってんだ)
今更、こんな年で恥ずかしがるようなことでもないのに。
それよりも、こんな場面くらい何度も迎えていた筈だ。
…ただし、毎回相手は女だった。
(俺…趣味変わったのか)
抑えられなかった、と。
辛抱が足りなかったのか、それとも何かの弾みか。
思い出せる範囲で昨晩の記憶を漁り、整理してみると己の切羽詰まった感覚が読み取れる。
情けなくて言葉も出なかった。
(子供かよ…)
世話焼きの使用人はそれを受け入れてくれた。
存分に甘えても良いんだ、と。
温もりと優しさと、愛情と心と身体と彼なりの全てを。
思い出した昨晩の情景が己のヘタレさを物語る。
「たまには休暇も必要だよ、な」
フ、と軽く微笑み、衣服を身に纏う。
大臣にガイラルディアの休暇届けを提出するよう託を交わす。
そして仕切り直しだ、と言わんばかりにベッドへともう一度潜り込んだ。
end.
2010/08/28
(あとがき)
陛下がなんと、ヘタレです。
そんなことはないと思ってたのに、だんだんヘタレモードへ。
これは一応、冒頭でも話たようにピオくんがガイをヤっちゃった、と。
それで「抑えきれぬ衝動」に繋がっている感じです。
で、そのヤっちゃった版として、執筆予定しているのが「初夜」です。
この繋がりで題名をどんどん消化していこう、と!
いちいち設定考えるのが大変ですからねー…(遠い目
間が空くかもしれませんが、「初夜」では裏を予定しております。
お楽しみにっ!^^
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