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シリアス



「っ痛…!、あー…」

ガイは出した手を一度引く。
1オクターブ低くなった声が喉から発せられる。

「どうかしましたか?」
「ん、あ…いや、大したことじゃあないんだが」

事は書類整理の最中に起こった。
最近忙しいから、とグローブをはめていなかったガイの指に亀裂が走る。
素手だった為に白い肌に沿うように出来た切り傷。

「紙で指を切ったのですか…全く、無用心ですね」

じんわりと浮き出てきた赤。
刀傷とは異なり、切ったヶ所からキリキリと徐々に痛み出す。

「これって、本当に切れるんだな…」

まじまじとした顔をして傷口を見つめるガイを見て、ジェイドは思わず呆れてしまった。
その間にも血は止まること無く、身体から溢れているというのに。

「そんなこと当たり前でしょう」
「そっか…」

眼鏡をかけ直した手のひらにふぅ、と軽いため息。
ガイは自らの傷口に舌を這わす。
吸う、というより舐めるように。
慎重に垂れそうになった液体を口に含ませると次の血液が顔を現す。

「…苦い、な」
「血ですから」
「いや…なんだか気分がさ」

すっぱりとジェイドが言い切った後に、ガイは言葉を付け足す。
滲み出てくる傷を眺めるガイはどこか、哀しい目をしていた。

「…ガイ?」

そんなガイの異変を読み取ったかのように、ジェイドは名を呼ぶ。
書類に目をやっていた頭は、名を呼ぶのと同じタイミングでガイの方へと振り向く。
ジェイドはいつも通りの彼ではないような気がして、何か違和感を覚えた。

「ガ…」

返事は、ない。
ただガイは傷口を眺める。
放置されたそこは、指の間を伝ってついに床に落下した。
一滴、円形の染みがフローリングに出来上がる。

「血が、垂れていますよ」

立ち上がり、ジェイドはガイの肩に片手で触れる。
二、三度左右に揺すると覚醒したかのようにガイは「あっ…」と一言、声を漏らした。

「少し休んだ方が宜しいのでは?」
「いや…大丈夫だ。気にしないでくれ」
「ですが…」

ジェイドの気持ちを受けとること無く、ガイは気遣いを断った。

「悪いな。床、汚して…今綺麗にするから」

そうやって、ガイは自分のことはお構い無しに他を優先する。
ジェイドの労りの言葉など聞き入れる様子もない。

「ご心配なく。…それよりも、ご自分の心配をなさって下さい」
「……え、」

屈み込もうとして、悩むガイにジェイドは言った。

「どういう意味だい、旦那」

ガイは首を傾げ、いつもなら理解力のある頭は怪我の為かうまく回らないらしい。
眉間に多少の不快感を忍ばせながら。
意味が分からないならそれでいい、という風にジェイドは眼鏡のエッジを軽く押し上げる。
そうして、書類に目を移した。

「いえ、気になさらずに。それよりも救護室に向かられたらどうですか」
「あっ…ああ、そうだな。そうさせて貰うよ」

パタン、と閉まる扉の後に床についた染みを眺め、ジェイドは一人呟く。
誰も居ない部屋の静けさの中、扉の方向に向かって。

「貴方はその血を見て…何を感じましたか」

扉の向こうに気配があるのを知ってか否か、独り言にしては会話と同じぐらいの声量で。
ジェイドは再び、何事も無かったかのように書類に目を通す。
床についた血に何の対処も行わないまま。





「丸聞えなんだよ、バカ」

下ろした腕からは重力に従うように赤い線が出来上がり、また一つ円形の染みを作らせた。





end.
2010/07/25

別にシリアスを目指した訳ではないのに、何故かそんな雰囲気になったので路線変更。
あと、ガイの傷が紙で切っただけであんなに血が垂れるなんて異常だよ!という突っ込みは無しの方向で^^←
ネクロマンサーは血を見て何を感じたのかな、欲情したのかな(おい
お互いの価値観なんて分かりませんね…。



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