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ほのぼの



「ヤなんだよな〜こういうジメジメした感じが」

宮廷のどの角度から外を眺めようと、景色が一向に変わることはない。
見渡す限り薄暗い空ばかりが広がる。
少量のポツポツとした雨音なら可愛らしいものだ。
実際のところ、ザァザァと怒りを表すように降り続ける自然現象の雨に怒りさえも覚える。

「あ〜もう陛下!お願いですから動かないで下さいよ」
「いーじゃねーか、ケチケチすんな。男だろ」
「そういう問題じゃないですってば…」

陛下の背後に立ち、お髪を解かす。
湿気で好き放題くねっている長髪とは、厄介以外の何者でもない。
しかし解された金髪は思わず見入ってしまう程艶があり、しっくり指に馴染む。

「ん?何だ、終わったか」
「っあ…ええ、終わりましたよ」

髪を一纏めにさらっと下ろす。
まるで室内のはずなのに、風が舞った感覚に陥ってしまう。
テーブルの上の、陛下と同じ瞳の色をした髪飾りを手に取った。

「…そんなもん見つめて面白いか?」

鏡越しの質問に過激な反応をしてしまう。
自分でも分からないが、何故か手が止まってしまっていたようだ。

「やっ…その、この髪飾り、陛下の瞳の色と同じなんだなぁと思って…」
「あ、そうか。お前も欲しいんだろ」
「いえ…そういう意味じゃありませんよ」

パチンッ、と髪飾りをはめる。
どうも厄介な話題に触れてしまったらしい。

「俺はそういう意味に聞こえたんだがな、ガイラルディア」

振り向かれると目線を逃がす場所が見つからず、押されてしまう。
うっ、とまるで図星を突かれたようだ。

「お前も髪を伸ばせばいい、似合うと思うぞ」
「嫌ですよ。今のままで十分です」
「何だよ〜人が折角きっかけを与えてやってるっつーのに」

後ろに振り返ってきた陛下は俺の頭のてっぺんをわしゃわしゃと掻き回した。
整えられた髪型は総崩れになる。

「なっ、何するんですかっ」
「だから俺はジメジメしてんのは嫌いって言っただろ」

この年で頭を撫でられるだなんて、妙に恥ずかしい。
こっちの思いとは裏腹に陛下はそんなことすら気にも止めていないのだろう。
沈黙は雨の音が満たしてくれる。

「やるよ、コレ。皇帝勅令な」
「や、困りますって陛下っ…」
「俺がお前にやりたかったからあげたんだ。気にすんな」

雨なんて、今にでも吹き飛ばしてしまうような眩しい笑顔を向けられる。
負けてしまう、その威力があるとも言える表情の変化に。
皇帝陛下、だからと言う訳ではない。
心の奥の断れきれない何かを感じる。

「もう…いいですからサボってないでご公務に戻って下さいね」
「あ〜雨の日はダルいんだよな〜」

柄にもなく少しぐらい髪を伸ばそうかな…と、思ってしまった自分の思考に自己嫌悪。
宮廷の庭を眺めると、降り続いていた筈の雨は上がり、変わりに色とりどりの虹が顔を現していた。





end.
2010/06/27

雨ネタは初めて。
梅雨ですもんね〜すごく蒸し蒸ししていますが^^;



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あきゅろす。
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