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シリアス



唄が、聴こえる。
何度も聴いた心地良い唄声が、まるでリラックスを促してくれるように。
決して飽きることない低音は脳の神経を刺激する。
気を休めてもいいんだよ、と言葉を優しくあしらう。

弛緩する。
緊迫した空気に包まれた日常に、うんざりした心が悲鳴を上げるからだ。
もっと自由になりたい、ただの無知な子供で居たい。
はしゃぎたい、叫びたい、遊びたい、楽になりたい、素のままの自分で居たいから。

ねぇ、唄を聴かせて。





「お疲れで、おられますか」
「そう…見えるのかよ」

何の為か、応えたくなかったのか振られた質問を質問で返す。
ベッドの枕を抱き抱えながら反対側に寝返りを打つ。
これにはヴァンも何かを悟ったように、傍らフッと笑い出した。

「…フ、」
「何が可笑しいんだ」

咄嗟に振り返り、口をへの字にして不機嫌を付きつけると、思ったよりもヴァンの表情は柔らかい。
少しムキになっていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。
肩の力を抜いて、小さく鼻から溜め息を漏らした。

「いえ…長年の勘、とは案外当てになるものだと思いまして」

解りにくいような、解りやすいようなどちらとも言えない返答に眉間を寄せる。
意図が伝わりきれていないからだ。

「唄が聴きたい」

まるで豆鉄砲を食らったチュンチュンのように、これ程まで呆然としているヴァンを見たことはあっただろうか。
むしろ、そこまで驚かれていることにこちらが驚きだ。

「…屋敷の者に聴こえてしまいます」
「最初に全員眠らせればいいことだろう」

俺は今聴きたい、お前の唄声が。
遠い昔に好きな時に歌ってくれたように、好きなだけ、好きなくらい、ずっと聴いていたかった唄声を。

「頼むよ、ヴァン…」

ついには弱り切った一言を漏らす。
唄が、唄声を、ヴァンの、どうしてか、無性に、解らなくて、欲しい、聴きたい、どうか。
頭で言い出した自分が理解出来ないまま、一度は拒んだはずの口は動き出す。
先程のヴァンの言っていた長年の勘とやらが働いたのか、心の内を悟ってくれたように了解してくれた。

「しかし、小声で…少しだけなら」

唄が、聴こえる。
目を閉じれば呑み込まれていきそうで、何もかもを忘れられる。
心地良い唄声が全てを包んでくれる久々の安心感。
ああ、なんて壮大な温もりだろうか。





end.
2010/06/21

譜歌ネタが急に舞い降りてきまして、屋敷の壮絶な日々をヴァンがガイを唄で癒してくれていたら良いと思いました。
ああ、もう途中からベッドとかどうでもよくなってる!^^;


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