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誕生日ネタ・LGL





「はっ?誕生日の記憶、ねぇのかよ」

嘘はついていない、紛れもない事実だ。

「まぁ、な」
「ふーん…」

記憶が無い訳ではない。
無いのは一部分にすぎないからだ。
集まった親族に食事を持て成し豪華なご馳走を舌鼓する。
珍しく息苦しいおめかしをし、宴の主役は預言を詠まれる。

『ガイラルディア、五歳の誕生日おめでとう』

「何しかめっ面のまんま突っ立ってんだよ、ガイ」
「っああ…悪かった」

問題はその後、だ。
もし戦争が勃発する前に預言者の預言を聞いていたのなら、俺はこんな場所に居ないかもしれない。
大切な人を無くすこともなく、家族を失うことも無く、身分も隠すことも無く。
自我に囚われることも無く、復讐することも無く、辛い想いをすることも無く――…。

「人間て、残酷だな」

ポロリと口から溢れた言葉は一体誰に向けられたものなのか。
慈悲があれば、あんなことにはならないだろう。
血みどろの世界なんて二度と御免だ。

「意味わかんねっ。何言ってんだよ」
「いや、分からなくていいさ…それよりルーク、早く着替えちまえよ」

顎をくいっと向けた先には普段とは違い、正装を纏ったお坊っちゃま。

「あーめんどくせっ、ガイが脱がしてくれって」

見苦しそうに襟を引っ張る姿が視界に写る。
ベッドの端に座るルークの背後に回ると、首元に手を掛けた。
いっそのこと、長い間実行したくて止まなかった行動に出てしまおうか。
無言のまま両手を背後から忍ばせる。

「なっ、そういや今日って何の式典だったんだ?」
「…何だ、お前知らないで出席してたのか」

振り向いてきた顔はあまりにもタイミングが悪く、手が不自然に見えないように演技する。
ああ、もう少しでこの手に掛けられたと言うのに。

「んなもん興味ねーもん」

ピクリと、まるで時が止まったように瞳孔が、開く。
落ち着け、沈まれ、まだ早い。
抑えてくれ、頼むから。

「話長ぇーし、マジで退屈だった」
「そうか、お前にはつまらなかったよな」

表情は崩れていないだろうか、声は震えていないか、手は服に掛かっているか。
全神経を集中させる。
理性に押し潰されない為に。

「めんどくせっ…あ、で?何の日だっけか」

聞いて何になる?と、問い掛けてやりたい。
何も知らないんだろ、箱入りお坊っちゃんは。
俺の気持ちなんて…他人の過去なんて、知りたくもないってか。

「戦勝記念日さ」

ほら、そうやってまた不快な顔をこちらに浮かべる。




そうして、閉ざすことしか出来ない幼稚な自分の心へ矛先を定めて

end.
2010/05/30

自ら過去を喋ろうとしないから、ルークも分からない。


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