ギンガイ 「お疲れさま。ギンジ」 声のした方へ振り返ると労いの言葉をかけながら、ガイさんがコップを差し出してくれていた。 装着していたゴーグルを外し、視界をクリアにした後にそれを受け取る。 渡されたコップからはコーヒーのコクのある香りが広がり、暖かな湯気と温もりを感じられた。 「ありがとうございます」 先程、与えられた笑みを同じように繰り返した。 するとガイさんは隣にあるもう一つの操縦席へと腰を下ろす。 そのまま操縦席一体に広がる景色を一望しながら、もう片方の自分用に淹れたであろうコップに口付けている。 自分もコップに口を付けつつ、よそ見している訳にもいかないのでガイさんと同じように景色を眺め、進路方向を確かめながら操縦レバーを握っていた。 「皆さんのところに行かなくていいんですか」 不意に、疑問に思ったことを口に出してみた。 他の方達は甲板で昼食をとっている最中だ。 あちらからは和気あいあいとした声だって聴こえてくる。 それなのにこの人は、どうして。 「…君は何故そう思った?」 「何故、って…」 分からない。 思ったことをただ口に出してみただけだった。 特に理由なんて見当たらなかった。 思い悩む内、会話は途切れた。 沈黙が少し過ぎた頃、ガイさんが口を開く。 「じゃあ今度は俺が質問するが、どうして操縦を自動操縦に切り替えないんだい?」 前方の、硝子に広がる眺めながらの対話である。 真正面からお互いの面を見ている訳ではなかった。 いささか予想外の質問だった。 「…おいら、自動操縦が嫌いなんですよ」 「嫌い…?」 「そうなんです」 小さい頃から、空に憧れを持っていたんです。 快晴の空を見上げる度に何だか気持ちがわくわくして。 勉強も運動も苦手だったんですが、唯一、興味を持てて好きだと断言できたのが、空だったんです。 家の中で静かに過ごすよりも外に飛び出して空を眺めている方が好きでした。 何も考えずに、空だけ見つめて。 青い空を眺めているのも好きですが、シェリダンから見渡せる夕陽も気に入ってるんです。 それだけ、空に執着しているんです。 その想いがどうにか形にならないかと思って、浮遊機関の飛行訓練を受けました。 飛行パイロットに憧れを抱いて、苦手だった勉強も一生懸命やりました。 憧れだったこの浮遊機関は、おいらの全てなんです。 アルビオールに自動操縦をつけること自体、おいらは反対だったんです。 恥ずかしい話ですが、何もそんなもの取り付ける意味は無い、ってじいさんとモメたこともありました。 結局は安全性の問題で取りつけなくちゃいけないことになったんですけどね。 「だから、なるべくアルビオールは自分の手で操縦したいんです。言ってしまえばおいらの一つのエゴになるかもしれませんが。変…ですかね」 苦し紛れの苦笑いをした。 長く続いた一方的な語りをガイさんは口を挟むこと無く、最後まで傾聴してくれた。 「いや…そんなことないさ」 「質問の答えになっているかは曖昧なところですが…」 「いいんじゃないかい。そういう考え方も。俺は好きだな」 好き…、おいらが空が好きだと同じように? いや、けどガイさんは考え方に共感してくれただけであって、別においらが好きだと言った訳でもなくて。 「けど、たまにはきちんと休息もとってくれ。もしもの時には君の力が必要だからね」 また、ガイさんは安心するような笑みをこちらに向ける。 いつの間にか飲み終わっていたコップを手にしてその場を去っていった。 一人残った操縦席で、学のあまり無い頭であれこれ先程の対話の中身を整理しようとした。 けれども考えれば考えるだけ整理がつかず、脳内でよく分からない感情がぐるぐると渦を巻く。 (…?コーヒーでも飲んで、落ち着こう) その時初めて、空以外のものを好きになったのではないのかという錯覚を覚えた。 end. 2011/05/08 (あとがき) 捏造万歳!! アッシュ達とルークが合流しているのでギンジがアルビオール操縦しているんですよ、という補足をどこかに詰め込もうとしましたが無理でした。 不自然な境遇の二人ですみません…。 皆さん昼食とっているのにガイがギンジに持ってきたのはコーヒー…(笑 ギンガイ書いたのはこれが初めてですが、全く絡みもクソもありません^^; しかもすごく障りの部分(笑 ギンジの感情が恋に発展する手前の手前らへんです。 このガイはガイで、ただのタラシですしね! あ、けどもしかしたら多少ギンジに同士の想いを持って接していたのかもしれないということで。← 結構楽しかったので、また機会があったら書きたいと思いますギンガイ…! [戻る] |