寝オチ 「昨日、今日中には家に帰ります、って言ったのは何処のどいつだよ」 「……すみません」 頭が上がりません、といった風にペン先を持ったまま、ジェイドは謝罪の言葉を述べる。 西から上がった太陽は日の出を知らせ、部屋を隅々まで照らしていた。 仁王立ちしたままの人物へと朝日が直接当たり、更に眩さを増す。 「俺、夕飯作ってアンタのこと待ってたんだぜ。しかも朝まで」 「返す言葉も御座いません…」 事の始まりはこうだ。 業務の追加で残業をすることになったジェイドに先に家に帰っているように告げられた。 「今日中には家に帰ります」という言葉を信じ、夕飯の支度を済ませた後にただ一人、恋人の帰りを待っていた。 しかし、待てども待てども帰ってくるはずのジェイドはなかなか来ない。 すっかり冷めきってしまった料理に、扉が叩かれる様子のない玄関。 一睡もしないでジェイドの帰りをずっと待っていた自分が馬鹿みたいに思えた。 諦めて朝一番で軍部の執務室に顔を出すと、そこには机にうつ伏せのままのジェイドが居た。 何が、一体どうしたってんだ!?、と動揺しながら慌てて本人の傍に駆け寄った。 名を呼び、身体を揺さぶりかける。 すると微かに何かが聞こえてきた。 研ぎ澄まし、耳をジェイドの顔に近付かせた。 「まさかその場で寝オチしているとはね、あの死霊使い殿が」 聞こえてきたのは規則正しい寝息。 その後にジェイドが多少寝ぼけながらも起き出した。 つまり、残りの業務を終わらせてから家に帰ると言っていたが事実、一夜を執務室で明かした、と。 「だったら仕事、家に持って帰ってくれば良かったろ」 「持ち出し禁止の書類でしたので、終わらせて家に帰ろうかと思っていたのですが…」 「俺は心配して損したよ。過労でぶっ倒れてんじゃないか、と思って見つけた時は心臓止まるかと思ったぞ」 「本当に、すみませんでした」 机の上で寝た、としてもほんの数時間だろうし、ベッドで寝るよりも過労がとれる訳でもない。 第一、 ジェイドが居眠りをするなんて、今までで考えられないことだった。 余程疲労が溜まってしまっている、ということなのか。 せめて家に連絡をくれ、と言いかけた言葉はジェイドの身を思い、心の内に閉まっておいた。 「別に、怒っている訳じゃない。いくら待ってもアンタは帰って来ないし…心配、だったんだ」 なかなか帰ってこない恋人を永遠と、一人どんな想いで待っていたことか。 待ちぼうけをくらっている最初の数時間は怒りしか覚えていない。 だが、壁に掛けてある時計の秒針が時を刻むごとにその怒りはだんだんと、別のものに変わっていった。 「…どうやら、無駄な心配をお掛けしてしまったようですね」 何故、ジェイドは帰って来ないのか。 帰って来れないのか。 それとも帰りたくないの、か。 「俺がっ…どんな想いで、アンタをずっと…!」 「ガイ。無理しないで下さい。貴方に泣かれたら私は今以上に自分を責めてしまう」 ジェイドに言われて改めて気が付いた。 声が震え、視界が潤んでいる。 目頭を、押さえた。 「明日は二人で休暇をとって家でのんびり過ごしましょう。それに、貴方の手料理が食べたい」 「そんな旨い事言ってるけどな、残りもんしかないからな」 「全て私が責任を持って平らげましょう」 「…冗談だ。アンタのためにもう一回作ってやるよ」 end. 2011/01/11 突っ込みどころは色々です、はい。 同棲してるとか…新婚さんのようで楽しかったです^^ [戻る] |