妄想圏外区域
B
「南雲君!?」
「…っ!?な、なんでお前がこんなとこにいんだよ!?」
びっくりした。
本当にびっくりした。
まさか南雲君が同じマンションに住んでただなんて。
「……南雲君もごみ出し?」
「…見りゃ分かんだろ」
ああ、違う。会話的におかしくはないけど僕が言いたいことじゃない。
僕が伝えたいことは。
「その…、この前は有難う」
「は?」
「保健室まで、運んでくれたんでしょ?」
「………」
「あと、手も握ってくれてたよね」
「……っ」
「なんだか凄く…あったかい気持ちになれたんだ。だから、有難う」
勧誘する前にどうしても言いたかった、御礼の言葉。エゴかもしれないけれど、ありのままの気持ちを伝えたかったんだ。
「………お前さ」
「?」
「俺がプロミネンスのリーダーだってことは分かってんだろ?」
「うん」
「…俺に殴られたことも忘れたわけじゃねぇよな」
「うん」
「………それで礼言うとか、信じらんねぇ」
南雲君は珍しいものでも見るような目を僕に向けてきた。
信じられないようなことをしたつもりはないんだけど…。
首を傾げる僕に、彼は小さく嘆息した。
そしてそのまま僕の横を通り過ぎていく。
たん、たんと階段を下りていく音に、ごみ出しに行かなきゃいけないことを思い出す。
そういえばそろそろ収集車が来る頃合だ。
僕は南雲君の後を追うように階段へと足を向けた。
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